×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

Ib[アイビー]
天使ノ身体切リ売リ候‐エピローグ

道。

月が照らし、静かに沈む樹林の中に、舗装された道が走っていた。
その中央に、陽彦はいた。
へたり込み、その目はうつろに、月を見ていた。
手の中に、下弦の大好きだった絵本が収まっていた。

結局、陽彦は誰も救えなかった。
買収した仲間たちの裏切り、父親の末路、死の恐怖、その混乱の中で逃げ回り、
下弦の手だけを引いて村から逃げ出した。

慈月村は、すべて火に包まれた。
誰が逃げ、誰が死んだか分からなかった。
ただ天使たちが、誰も助かっていないのは分かった。
輸送用のバスに入れられて外側から鍵をかけられ、その運転手は誰もいなかった。
仲間三人。
書庫での二人と、それにもう一人。
逃げる途中で、陽彦が殴り倒していた。

陽彦は、目を落とし、下弦の絵本をなでた。

一緒に走り、この舗装路を下った。
限られた人間しか通らない、そして車でしか普通は通らない道を、二人して走った。
人の足で行くには、その道は長すぎた。
骨格に変形があり、また外に出て運動する機会もない下弦は、すぐに走れなくなった。
それだけでなく、免疫力のない天使の体を、外の空気と環境は容赦なくむしばんでいた。
下弦は道中の途中で、あっけなく死んでしまった。
最期に、「ありがとう」と陽彦に言って。



無気力の時間が、どれほど続いたのか。

不意に陽彦は、ヘッドライトに照らされた。
陽彦は顔を上げた。
ハイビームの眩惑に目を細める間に、車は止まり、ドアが開いた。
男が出てきて、陽彦に歩み寄った。

ライトを背にして、男は陽彦の前に立ち止まった。
全身黒い服に、黒い野球帽をかぶっていた。
逆光で顔はよく見えなかったが、耳には金属のピアスがはまっていた。
このときは光で形状が分からなかったが、それはドクロの形をしていた。

男は、口を開いた。
どこか獣のような荒さをたたえながら、静かな声で、男は言った。

「高峰陽彦。
おまえを我々の組織へ招き入れたい。
おまえの存在を、『アイビーオーグ』は歓迎する」

男の手は、差し伸べられた。



―s(c)elled angels―






出典・参考資料
NEDO:新たな「ヒト多能性幹細胞(Muse細胞)」を発見
Damaged epithelia regenerated by bone marrow-derived cells in the human gastrointestinal tract.
造血幹細胞 - Wikipedia
白血病 - Wikipedia
トレチノイン - Wikipedia
臓器の移植に関する法律 - Wikipedia



Next case: not named yet

【投票】

目次 小説一覧 トップ