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第6ステージ 峡谷

    

世界の平和を求め、日々戦い続ける勇者たち。
そんな彼らもやっぱり人間、たまには休息したくなるもの。
今回ブロントとテミがやってきたここは秘密の隠れ家温泉地、ラピス火山ふもと峡谷温泉。
temi「ブロント君ブロント君v 温泉だよ温泉v
  温泉に来たらやっぱり……混浴? きゃっvvv」
blont「駄目だよテミ、ちゃんと男は男湯、女は女湯に入らないと」
temi「え〜〜っ、つまんなーい」

がっかりしてぶーたれるテミに対して、ブロントは優しくささやいた。
blont「男と女の境目がなくなっちゃったら、僕らの恋は成立しないだろ?」
temi「ブロント君っvvv」

二人の愛が沸騰し、白い湯気が立ち上った。
愛の丸い円卓に湯気が上がって、温泉に入る前から温泉マークが二人を包む。
magenda「そこのバカップル、入口で立ち止まって湯気上げない」
blont「あ、ごめんなさい……ってあれ? マゼンダ?」
temi「あ――――っ、マゼちゃん! 久しぶり〜〜!」
magenda「ブロントにテミ……あんたたち、なんでこんなトコに?」

ブロントたちに注意したその人は、二人の旧知の仲、マゼンダであった。
しかも彼女は和装をして、すっかり仲居の格好をしていた。
blont「なに? マゼンダ、ここで働いてたの?」
magenda「ええ、一年くらい前から……
  それよりあんたたちは? 冒険者のカッコしてるけど、まさか今でも魔物退治?」
blont「まあね。昔とは比べ物にならないほど強くなってるよ」
temi「今ならマゼちゃんの魔法にも対抗できちゃうんじゃない?」
magenda「あら、ずいぶんな自信ね。ならテミが試してみる?」
temi「え……。わ、私はいい……」
blont「今はテミの方がよっぽど丈夫だけどね、いや冗談抜きで」

予期せぬ旧友との再会を果たし、三人はしばし思い出話に花を咲かせた。
その中でブロントとテミが何度余計なことを言って燃やされたかは、ご想像にお任せしよう。


    

temi「ああ〜〜っ、温泉って最高〜〜〜v」
magenda「ふー、休憩時間のこのひと風呂がたまんないのよねー……」

隠れ家らしい小さな露天風呂に、テミとマゼンダは浸かっていた。
板一枚を隔てた向こう側はすぐ男湯になっており、そこにブロントがいる。
そしてせっかくの入浴シーンなので、これから作者がカメラを持って潜ny……
magenda「変態一名発見、直ちに焼却処理する」
temi「マゼちゃん、殺しちゃ駄目っ! 作者を殺したらこの小説が終わっちゃう!」
blont「やれやれ、マゼンダはすぐ怒るから怖いなあ」
magenda「アンタいつの間に女湯に入ってんの!?」

ふと気付くと二人の背後にブロントが平然とくつろいでいた。
びっくりしてマゼンダは飛び上がり、テミは体を隠して湯船に沈んだ。
temi「ぶ、ブロント君、いきなり入ってきたら恥ずかしいよ……///」
blont「別に構わないじゃないか、生まれたままの格好でも。
  僕らがこうして出会ったのは、生まれたときからの定めだろう?」
temi「ブロント君っvvv」

素っ裸のまま二人は抱き合い、情熱的な桃色ワールドが展開された。
たちまち水温は上昇し、ボコボコと音を立てて沸騰しだした。
magenda「ちょっと、温泉こんなに沸かしたら浸かってられないじゃないのよ」

慌ててマゼンダが風呂から上がると、その目の前にあった木立がガサリと揺れた。
zilva「はーっはっはっブロント! 鍛えなおした俺様と勝負しやが……」

勢いよく登場したジルバの目の前には、一糸まとわぬ姿のマゼンダがいた。
ジルバの鼻から赤いモノがつつつーと流れた。
magenda「我ガ地獄ノ業火ヲ受ケテアノ世ヘ落チロ……(ゴゴゴゴゴ)」
zilva「誤解だ誤解!! 俺は決してのぞきに来たわけじゃなくてーッ!!」
temi「マゼちゃん殺しちゃダメーっ!!」
blont「なんでさテミ」
temi「あ、ジルバ君なら別にいいのか」
zilva「ひでーなおまえら――!!!」

その数秒後、ジルバの悲鳴が温泉地全体に響き渡った。


    

magenda「お風呂上がりはフルーツ牛乳、これって定番よね」
blont「そして僕は大好物のマヨネーズをにゅるにゅるにゅる」
magenda「……せっかくお風呂入ってサッパリしたのに気分悪いもの見せないでよ」
temi「マゼちゃん、私、コーヒー牛乳の方が……」
magenda「そのネタも定番よね、なんでそうなったか知らないけど」
zilva「世の中には知らない方がいいこともあるのですよお嬢さん」
magenda「なんだかキャラ違いの妙なセリフが聞こえたけど空耳ってことにしとくわね」

煙を出す謎の物体Zをつま先でいじりながら、マゼンダは炎の書をたたんだ。
temi「あの……コーヒー牛乳……カフェインが欲しいんだけど……」

フルーツ牛乳を持って取り残されるテミに対して、ブロントは甘くささやいた。
blont「カフェインなんか取らなくても、僕が何度でも眠れない夜を味わわせてあげるよ」
temi「ブロント君っvvv」

本日三度目の桃色ワールド。いつにも増して絶好調である。
magenda「……そろそろあたし仕事に戻るわね。
  あんまりサボってると怒られちゃうし、なんだかお邪魔みたいだし」
blont「あっ、ありがとねマゼンダ」
temi「……サボってた?」

マゼンダは従業員室へと向かい、ブロントとテミも別の場所へ移動した。
二人の姿が見えなくなると、マゼンダは誰にも気付かれないように、細いため息を吐いた。
magenda「ホント、なんでこんなトコ来るかなぁー……
  格好悪いじゃないのよ、いつまでも初恋引きずってるなんてさ……」

   *

blont「キャノンショット炸裂、7ボール8ボールポケット。
  このまま9ボールも入れれば僕の勝ちだね」
temi「あーん、ブロント君強すぎだよぉ〜」

二人は遊技場でビリヤードを楽しんでいた。
変則ルールとして、キュー(棒)の代わりにジルバットを使用している。
blont「さーて、テミには悪いけどこのまま勝たせてもらうよ」

ジルバットの首根っこをつかみ、足先を手玉に向ける。
blont「っと」

右手を滑らせて、ジルバットを落としてしまった。
ジルバットは頭から落下し、ごぎ、という音を立てて首が直角に曲がった。
blont「あー、曲がっちゃった。これじゃ使い物にならないや」
zilva「おまえらいい加減、俺の人権認めて」
temi「ねえねえブロント君、この曲がり具合ならゴルフクラブとして使えるんじゃない?」
blont「うん、いいねそれ」
zilva「おまえらなー」

その後、二人はパターゴルフ場へ移動して楽しんだ。


    

マゼンダは一人自分の部屋で、肌襦袢一枚になってテーブルに身を預けていた。
ほどいた髪の毛がばらまかれ、ひとつため息をつくたびにグラスの氷がカラリとゆれる。
グラスの中身が酒でなくりんごジュースなのが格好つかないところだが。
magenda「バーカ……ほんとにバカ、あたし……
  想うだけじゃ成就しないのよ、恋愛ってものは」

グラスのふちを指でなぞりながら、今日何度目かの自虐をつぶやいた。

ブロントとマゼンダは生まれたときからずっと一緒だった、いわゆる幼馴染である。
七年前にテミが現れると、すぐに打ち解けて三人は親友になった。
それからもほとんど時間を置かないうちに、ブロントとテミは恋仲になった。
マゼンダが自分の気持ちに気付いたのはそのときだった。
magenda「気付いたときにはもう遅かった……どうしようもなかった……
  それでもあきらめきれないのね、あたし……
  心のどこかで期待してる、あの子たちがうまくいかなくなること。
  バカよねあたし、そんなこと、あるわけ……」

不意に顔を突っ伏した。
目元に当てられた肌襦袢のそでが、見る見る湿り気を帯びた。
magenda「ほんとバカよあたし、そんなの、あの子たちが不幸になることじゃない……
  人の不幸を期待するなんて、あたし、本当に、最悪よ……」

ううっ、とマゼンダは嗚咽を漏らした。
気丈な彼女の誰にも見せない一面を出すのは、皮肉にも誰かの支えが必要なときである。

  「マゼンダ」
magenda「あっ……すみません」

扉越しの声で勤務時間中であったことを思い出し、マゼンダは平静を装って部屋を出た。
部屋の外にはこの温泉地の主人であるシャアスラがいた。
magenda「ごめんなさい、すぐ仕事しますから」
slimebess「……憎いか?」
magenda「えっ?」

仕事場に向かおうとしたマゼンダに、不意の言葉が掛けられた。
slimebess「二人が憎いのか?」
magenda「あの、あたし仕事に行きますから」

足早にシャアスラの横を通り抜けようとすると、素早い動きで行く手をふさがれた。
slimebess「憎いなら、力を貸してやる」

シャアスラがそう言うと、突然マゼンダの視界がぐにゃりとゆがんだ。
magenda「あ……っ?」

平衡感覚がおかしくなって、倒れるように壁に寄りかかった。
slimebess「おまえは知っているはずだ、どうすればおまえの願いが叶う?
  どうすればおまえの望む者をおまえのものにできる?」

視界がゆらめき、思考がゆらめき、シャアスラの言葉が何度も何度も反すうされた。
問いかけに対してじわじわと負の感情が染み出して、意識をどんどんうずめていった。
やがてマゼンダはふらあっと壁を離れて、ぶらんと腕をたらした。
後ろに倒れかけて天井を仰いだその瞳には、今までとは違う邪悪な光がたたえられていた。
magenda「……ころしてでも、うばいとる」


    

blont「そういえばジルバ、マゼンダの(ピー)写真持ってたよね?」

不意をつかれて、首が九十度曲がったジルバはテミに向かって思いっきり緑茶を吹き出した。
blont「もしかしてジルバってさあ、マゼンダのこと……」
zilva「なっ、バッカおめ、なんで俺様があんな冷血女のこと好きにならなきゃいけねーんだよ!?」
blont「おやおや〜? 僕はまだ『好き』なんて言葉ひとことも言ってないけどなー?」
zilva「うっ……」

ブロントにはめられて、首が九十度曲がったジルバは言葉に詰まった。
すかさず緑茶まみれのテミも身を乗り出して、首が九十度曲がったジルバにちょっかいを出した。
temi「イジワルなこと言うのも好きの裏返しっていうもんねー?
  冷血女とか言っときながら本当はマゼちゃんが時々見せる女らしさに惹かれてるんじゃないのー?」
zilva「へっ、誰があんなペチャパ……」

言い終わる前にブロントの正拳がクリーンヒットし、ジルバの首は反対方向に九十度曲がった。
blont「ジルバ、冷血はともかく胸のことは言わない方がいい。死ぬより酷い目に遭う」
zilva「う……わ、わかった」

ブロントのマジな顔を見て、首が反対方向に九十度曲がったジルバはたじろいだ。
blont「で、ジルバは一体どうするつもりなのさ?」
zilva「ど、どうするって……あんだけ嫌われてこれからどうしようって……」

いうんだよ、と言おうとした途端に巨大な揺れが旅館全体を襲い、ジルバは舌をかんだ。
zilva「〜〜〜〜っ……!」
temi「なっ、なに!? 地震!? きゃーっ!!」

上下左右に大きなうねりが生じて、テーブルもソファもテミもその他諸々も吹き飛んだ。
屋内は物がぶつかり合う音とけたたましい火災警報器の音、それに慌てた従業員の声とが交錯した。
goblin「みなさ――ん!! 火事で――す!! 非難してくださ――い!!
  旅館の中で強力な炎の魔術師が暴走していま――す!!」
blont「炎の魔術師……!?」

ブロントたちの脳裏に同じ人物が浮かんだ。
zilva「(ごきっ)行ってみようぜ!!」

首の位置を元に戻したジルバが、真っ先に飛び出していった。
ブロントも転びまくってタンコブだらけのテミの足を引っつかんで、ジルバの後に続いた。


    

blont「マゼンダっ!!」

燃え盛る炎の勢いに阻まれて、ブロントは立ち止まった。
炎の壁に封じられた廊下の向こうには、うつろな目をして魔力を暴走させるマゼンダがいた。
zilva「ぜーはーぜーはー、よーやく追いついた」
temi「移動力3のうすのろめ、先に出といて遅れるたあ情けねえと思わねえのかよ!?」
zilva「タンコブ作りまくったせいでテミの性格が裏返ってる!?」

ブロントに引きずられてタンコブ十割増のテミは、なぜか江戸っ子口調になっていた。
blont「マゼンダ、目を覚ませ! 炎を止めるんだ!
  こんなことして僕のマヨネーズが悲しむと思わないのか!?」
zilva「思わねーよ!! なんだマヨネーズって!?」
magenda「黙れ、うすのろ鉄野郎」
zilva「俺――っ!?」

マゼンダが腕をひと振りすると、炎の渦が三人を押し払った。
同時に屋根も壁面も吹き飛ばされ、朱のカーテンの向こうに星空が広がった。
blont「くそっ、なんて高圧の炎だ……通常の三倍の速度で魔力を消費している……」
slimebess「私に気遣ってガ○ダムネタありがとう」
zilva「貴様は!?」

ブロントたちが振り向いたそこには、赤い彗星軍のリーダー・シャアスラがいた。
blont「まさか、おまえがマゼンダを……」
slimebess「察しの通り、私がマゼンダを暴走させたのだ」
temi「さっさと元に戻しやがれこのゲス野郎!!」(ざくざくざくざく)
slimebess「ぎゃあああああああ!!」(ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ)
blont「テミ、殺しちゃ駄目だ。マゼンダの止め方が分からなくなるぞ」
temi「あ、そっかv」
zilva「テミ、戻った?」
slimebess「うぅ……」

暴走気味のテミのせいで段取りが狂ったが、気を取り直してシャアスラが語りだした。
slimebess「ふはは……マゼンダの暴走は止まらない……
  今の彼女は私の命令のみを聞く忠実な操り人形なのだよ」
temi「元に戻しやがれ!!」(ざくざくざくざく)
slimebess「ぎゃあああああああ!!」(ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ)
blont「テミ、落ち着け!」

再び暴走状態のテミを無理矢理引きはがして、その唇にキスをした。
temi「うぷっ、ブロント君っvvv」

熱く燃え上がる桃色ワールドが展開され、テミのタンコブは全て治った。
temi「ごめんねブロント君、私ちょっとおかしくなってた」
blont「いいんだよテミ、君はいつでも僕の大好きなテミなんだから」
temi「ブロント君……vvv」

愛の炎はますます勢いを増し、大きく厚く広がって……。
slimebess「ぎゃあああああああ!!」(プチッ)
blonttemi「「あ」」

 −シャアスラ、桃色ワールドにつぶされて圧死−
zilva「おいおいおーい!? どうすんだよー!?」
magenda「コロス、コロス、コロス……」

制御者のシャアスラがいなくなって、マゼンダの暴走が一層増大した。


    

四方から炎の腕が襲い掛かり、ブロントたちはそれを避けるのに精一杯だった。
zilva「あちちち、あちーっ! ケツ! ケツ燃えた!」
blont「せめて気絶させて行動を封じたいところだけど、近づけなければどうにも……!」
temi「ジルバリアーを盾にして進めばいいんじゃない!?」
zilva「おまえなーっ!!」
blont「くそっ……マゼンダ! 僕の声が聞こえるか!?」

解決手段が見つかるかどうか分からなかったが、とにかくブロントは対話を試みた。
blont「マゼンダ!! 目を覚ますんだ!!
  洗脳なんて君の精神力なら振り切れるはずだろう!?
  僕の知ってるマゼンダは絶対に折れない強い心の持ち主のはずだ!! 違うか!?」

ブロントの言葉に、マゼンダはぴくりと反応した。
magenda「……う、る、さ、い」

超圧縮の火炎弾がブロントの胸に命中し、ブロントは真後ろへ吹き飛ばされた。
temi「ブロント君っ!!」

ブロントは壁に強く叩きつけられ、その場にくずおれた。
テミに抱き起こされたブロントは、しかし、閉じかけた目をままにマゼンダへ向けていた。
blont「マゼンダが……泣いてる……?」

ブロントの言葉を聞いて、テミもジルバもマゼンダの方へ振り向いた。
灼熱の炎にあおられるマゼンダのほおには、確かに、白く細く涙の軌跡が描かれていた。
magenda「知らないじゃないのよ……
  本当のあたしのこと、なんにも分かってないじゃないのよ……!
  好きだったのよあたし……ずっとずっと……
  なのにあんたたちは、そんな私の気持ちなんて全然知らないで……
  何が『僕の知ってるマゼンダ』よ! 知ったかぶりしないでよ!!
  あんたたちにあたしの何が分かるって言うのよ!?
  あんたたちがあたしの何を知ってるって言うのよ!!?」

マゼンダの言葉に合わせて、炎はさらに重く爆発するように広がった。
耳を裂く爆音の中で、その奥にある悲しみの余韻を否が応でも感じた。
洗脳されてはいるがマゼンダの精神は消えていなく、否、むしろ素の精神を開放させて。
zilva「こ……の……バカヤローが!!」

水銀のような重たい炎と空気の流れに逆らって、ジルバが猛然と突き進んだ。
blont「なっ、ジルバ、駄目だ! 戻って来い!!」

気後れしていたブロントとテミは一瞬出遅れた。
すでにジルバの姿は炎の波の中だ。
zilva「こんな……この程度の炎なんてよお……俺にとっちゃ屁でもねえ……
  夜中にマゼンダの布団に潜り込んだときの方がよっぽど強い火力だったぜ!!」
blont「もしもし警察ですか!? ここに変態がいます!!」
temi「夜中に女性の布団に潜り込んだんです! 今すぐ捕まえてください!!」
zilva「てめーらせっかくのシリアス展開なんだからマジメにやれーっ!!」


    

zilva「くぬうっ……ゲホッ、おい! マゼンダ!!」

空気も視界も容赦なくさえぎる炎の壁を押し分けて、ジルバはマゼンダのもとへ進んだ。
magenda「う、る、さ、い」

マゼンダの手の平から火炎弾が発射され、ジルバの顔面に直撃した。
顔も体も真っ黒こげだが、それでもジルバは突き進んだ。
magenda「……な、ん、で」

炎を透かしたマゼンダの顔に一瞬戸惑いの色が見えた。
ジルバは笑って突撃した。
zilva「なんでって何がだよ? こんだけ炎喰らっても止まらないことか?
  そりゃ普段あれだけおまえやブロントにやられてりゃ、イヤでもタフになるさ」

ジルバが大振りに右腕を突き出すと、炎のカーテンがさあっと引き裂かれた。
その隙間の向こうに、マゼンダの姿がはっきりと見えた。
zilva「それか、なんで俺様がおまえのこと必死で助けようとしてるかってことかよ?」

突き出された右腕がマゼンダの肩をつかんだ。
そのままジルバの全身が炎の隙間をくぐって、マゼンダを押し倒した。
magenda「っ……は、な、せ」

至近距離からの火炎放射、しかしジルバはひるまない。
zilva「イライラするから、じゃ駄目かよ?」

マゼンダの両腕を押さえつけて、彼女の上に馬乗りになった。
magenda「はな、せ!」

周囲の炎がジルバの背中に降り注いだが、ジルバは全く意に介さない。
zilva「イライラすんだよ……おまえ見てっとよー……!
  本当にイライラしてイライラして気が狂いそうになる、だから助けんだ」
magenda「わけがわからない!!」

マゼンダはじたばたともがいたが、ジルバにがっちりホールドされていて身動きが取れない。
zilva「ああ、わけ分かんねーさ、俺様も、おまえもな!」

喉笛を噛み砕く獣のような荒々しさで、ジルバの牙をむいた顔がマゼンダの眼前に迫った。
zilva「『本当のあたしのことなんにも分かってない』だと?
  分かるわけねーだろーがよ!? おまえがなんにも言わねーんだからよ!!
  なんにも言わず誰にも相談せずで勝手に一人で悩み抱え込みやがって、
  言やいいじゃねーかよ!! 心の内、全部全部吐き出しちまえば!! 違うかよ!?」

ジルバは一旦言葉を切って、息を切らしながらマゼンダをにらみつけた。
マゼンダは怯えた小動物の目をして、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
magenda「無理よ……あたしにそんなこと、できるわけないじゃないの……
  もういいのよ……こんな弱くてみじめなあたしなんて、死ねばいいのよ……」

マゼンダのこの言葉を聞いて、ジルバのこめかみがブチッと鳴った。
zilva「ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞコラ!!
  俺様がどーしてわざわざ助けに来たと思ってやがんだ!! ああ!?
  俺様が!! マゼンダのこと!! 好きだからだろーがよ――――!!!」

ジルバの心の奥から吐き出された咆哮は、空気と皮膚と鼓膜と心をびりびりと揺すった。
あふれた音エネルギーは炎のカーテンを引き裂き、それでも飽き足らず上を目指した。
そして天を突き刺して、夜空のはるか彼方まで飛んでいった。
その熱い想いに答えるのは白くまたたく夜空の星々、そしてマゼンダの緑の瞳に浮かんだ大粒の星々。
天空と地上でひと粒ずつ、流れ星がこぼれ落ちた。


    

blont「ジルバがマゼンダに乗っかってる!? まさかイッツ大人のショータイム!?」
zilva「ちっ、違ーっ!?」

炎が消滅した途端にジルバは現実へと引き戻された。
よくよく考えればヤバイ、ヤバ過ぎる状態である。
現在ジルバ、マゼンダの両手を押さえつけて馬乗り。
マゼンダはマゼンダで肌着一枚、それも半分燃えて素肌が大胆に露出していた。
zilva「あ、ごめっ……悪り……そ、その、えっと……」

ジルバはいそいそとマゼンダの上から降りた。
マゼンダはそろそろと上半身を起こすと、ほうっと細いため息をついた。
そしてジルバの首根っこをつかんで、思いっきり引き寄せた。
zilva「ほわっ!?」

ひたいが接触する寸前まで接近して、マゼンダはにらみを利かせた。
magenda「バカじゃないの?」
zilva「は?」

不意の言葉にジルバはきょとんとした。
magenda「何が『好きだから』よ? 暑さのせいで頭おかしくなっちゃったんじゃないの?
  よくそんな恥ずかしいことあんな大声で言えるわね?
  一休さんじゃあるまいしボロボロボロボロ好きとか言ってんじゃないわよこの低能」
zilva「なっ……!」

マゼンダに小馬鹿にした態度をとられて、ジルバの顔が紅潮した。
その後ろでブロントとテミが『好き好き好き好き好き♪好き♪』などと冷やかすものだから余計に恥ずかしくなってくる。
zilva「おいマゼンダ! てめー助けられた分際で何を……」
magenda「ありがと」
zilva「へっ?」

不意の言葉を不意のタイミングで言われ、ジルバはまたきょとんとした。
そのままぼけっとしているとマゼンダのアッパーが開いたあごに炸裂した。
zilva「〜〜〜〜っ!! ひははんは!!(舌噛んだ)」
magenda「何ずっとアホ面してんのよ?
  あたしは同じことを二度言ったりしないわよ?」

口を押さえてうずくまるジルバを横目に、マゼンダは立ち上がってブロントたちの方へ向いた。
magenda「ダメモトなのは分かってるけれど……
  一応言わせてもらうわ。せっかくの機会だし」
blont「……うん。そうだね」

真剣な目を見せたマゼンダに対して、ブロントもテミも真剣な顔をして向き合った。
マゼンダは一度深呼吸すると、一気に思いの丈(たけ)をうちあけた。
magenda「ずっと……
  ずっと、好きだったのよ……!
  テミ……!」
blonttemi「「………………………………へっ?」」
magenda「初めて会ったときからずっと気になってたの……
  でも、なかなか言い出せなくて……」
temi「あ、あれ? えっ? えーと……私? えっえっ? ちょ、あれ?」
magenda「愛してるわ、テミ〜〜〜〜vvv」
temi「えっちょっえっ、きゃ〜〜〜〜っ!?」

マゼンダが両手を広げて抱きつこうとしてきて、テミは思わず逃げ出した。
magenda「待ってよテミ〜〜〜〜v 愛してるわ〜〜〜〜v」
temi「ブロント君じゃなくて〜〜っ!? なんでこーなるのー!?」

壮絶(?)な追いかけっこを繰り広げるマゼンダとテミを前に、ブロントもジルバもぽかーんとしていた。
zilva「マゼンダって百合キャラだったのか……! 知らなかった……」
blont「僕も付き合い長いけど、こういう落とし方は予想がつかなかったな」

そう言ってブロントは、ジルバの頭にマヨネーズをかけた。


  10  

magenda「ふう、言うこと言ったらすっきりしたわ。ありがと」
temi「こ、怖かった……」

いささか落ち着いた顔で、マゼンダはブロントとマヨジルバのもとへ歩み寄った。
zilva「あ、マゼンダ、これ着ろよ」

自分の荷物から上着を出してマゼンダに渡した。
マゼンダはそれを無言で受け取って、肩から羽織った。
magenda「……肩、広いのね」

羽織った上着の肩口部分は、マゼンダの二の腕部分まで垂れ下がっていた。
マゼンダは再びため息をついた。
magenda「もうこの旅館にはいられないわね……
  かといって、他に行くあてがあるわけでもないし……」

そう言ってマゼンダは、上目遣いにちらりとマヨジルバの方を見た。
ちょっと時間を置いてマヨジルバはマゼンダの真意に気付き、慌てて言った。
zilva「マゼンダ、俺と一緒に来ないか?」

マゼンダはまたため息をついて、それから次の瞬間、マヨジルバの唇に飛びついた。
zilva「んむっ……!?」

マゼンダのサクランボのような艶やかな唇がジルバの無骨な唇に重なり、舌がねっとりと絡みついた。
その官能的な感触に、マヨジルバの体温は一気に上昇し、頭のマヨネーズが沸騰した。
しばらくしてマゼンダは唇を離してジルバを見つめた。
その顔にはマヨジルバから流れたマヨネーズがついていた。
magenda「さっさと言ってくれないと困っちゃうじゃないのよ」

マゼンダはほおに指を当てて自分の顔についたマヨネーズを確認した。
magenda「なめて」
zilva「はあっ!?」

突然のデンジャラスな要求にジルバはマヨネーズが吹っ飛ぶほど驚いた。
magenda「子供ね」
zilva「な、な、な、な、な、な!?」
blont「あ、あのさあマゼンダ……」
magenda「あらら、ごめんごめん、すっかりあたしたちだけで楽しんじゃったわね」

マゼンダが呼ばれて振り返ると、苦笑したブロントとすっかり赤面したテミがいた。
magenda「それじゃ悪いけどあたしたち、そろそろ行くわ。元気でね」
zilva「あ、ちょっマゼンダ!?」

マゼンダが先にスタスタと歩いていって、ジルバは慌てて追いかけた。
マゼンダは立ち止まって、背中を向けたまま言った。
magenda「あたしは男でも女でも関係ないし、惚れやすい性格だから、
  本当にあたしのこと好きでいてくれるんなら、ちゃんと捕まえていてよ?」
zilva「あ……お、おうっ!」

ジルバの返事を聞いて、マゼンダはまた歩き出した。
ジルバも歩きかけて、ブロントたちの方へ振り返った。
zilva「じゃーな、ブロント、テミ。ありがとう!」

そしてマゼンダの横に走り寄って、足並み揃えて進んでいった。
二人の姿は闇夜の向こうに消えていった。
temi「……ジルバ君、絶対尻に敷かれるね」
blont「まあ、それはそれで幸せなんじゃないかな?」

ブロントは夜空を見上げた。
幾万年も変わらずある星々は、ブロントの心に不思議な安息感を与えた。
temi「あ、あのさ、ブロント君」
blont「ん?」

ブロントがテミの方を向くと、そのブロントの唇に、テミの唇が重なった。
temi「二人を見てたらさ、私もやってみたくなっちゃって。女の子からのキス」

そう言ってテミは顔を真っ赤にした。
ブロントは優しく微笑んで、今度はブロントの方からキスをした。
夜空の星々は優しくまたたいて、地上に芽吹いた全ての恋を暖かく見守る。
願わくば、彼らの恋が恒久に続きますようにと。

          〜峡谷編Clear!〜


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第7ステージ ラピス火山

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