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魔王の城(後編) ―神侵模倣千匠―

    

claw「っ――!!」

交錯する感情を、ひとまずは保留した。
直撃だけは避けるべく、十人はそれぞれの最善な方法で回避した。
白い衝撃波が散らばって、全員の体が流動するように引き離された。
その中で、風の加速を得たブルースが真っ先に攻撃に移った。
blues「渦巻く嵐の矢雨(うずまくあらしのやさめ)」

幾本もの矢が、放射状に発射された。
矢は風に乗って弧を描いて、目標の一点へと収束する軌道に乗った。
その一点は、魔王の位置であった。
魔王はにいっと笑って、技を発動した。
darkspirit「気功波・陣舞(ジンブ)!」

放たれた気功波が環状につながった。
矢は気功波にいなされて、その攻撃は失敗に終わった。
そしてその上方に、テミハンマーをかかえたブロントの姿があった。
blont「グランドウィールテミハンマー」

ブロントは縦方向に回転した。
巨大な車輪のごとく回るテミハンマーが、魔王を目がけて急降下した。
魔王はゆがんだ笑みを崩さなかった。
darkspirit「命華遷(メイカセン)」

全身の筋肉が、攻撃力へと変換されてテミハンマーとぶつかった。
激突の破壊力は衝撃波として分散して、ブロントは離れた位置に着地した。
ブロントは歯ぎしりした。
blont「く……! 手無しか……!」

魔王はにっと笑った。
ブロントの言葉を聞いて、ティンクが反論した。
tink「何言ってんすかブロ兄!
  ブロ兄にはまだ、最強最高の桃色ワールドが残ってるじゃないっすか!!」

ブロントは首を振った。
blont「駄目なんだ、ティンク……桃色ワールドは……」

ブロントの正面に、魔王のにやついた顔があった。
ブロントの説明を、魔王が引き継いだ。
darkspirit「桃色ワールドは、確かに反則的な最強クラスの技だよね。
  でもその桃色ワールドも、この冒険の中で一回だけ攻略されてる。
  僕が今使った、命華遷にね」

魔王はそれから、ブロントたちの姿を見回した。
そしてあることに気づいて、その表情から笑顔が消えた。
darkspirit「ルファはどこへ行った!?」

そのときルファは、魔王の背後にいた。
氷を体にまとい、光を屈折させて姿を隠しながら。
ルファの目の前には、魔王の無防備な背中があった。
息を殺しながら、ルファは氷で作った小さなナイフを振り上げた。
ルファは無声の気合いを入れた。
振り上げられたナイフが、まっすぐに振り下ろされた。
darkspirit「そこだね」

魔王が振り向いて、ルファの手を受け止めた。
ルファは驚愕した。
lufa「なっ……!?」

魔王はにいっと笑って、一人で喋った。
darkspirit「『威圧のエコー』。
  危なかったよ、これがなければやられてたかもね。
  見たことない技だね、なんて技かな?
  あ、別に説明しなくても見ただけで名前は登録されるからいいよ。
  んーとなになに? 『スキルVコード ヴェイグズ』?
  姿を隠す技かあ、なかなか便利だけど僕には使えないなあ。
  自分の威圧でバレちゃうもん、君と違ってね!」

魔王はルファを投げ飛ばした。
ルファが受け身を取ると同時に、魔王は魔力をためた。
darkspirit「ちょろちょろとうざったいから、これで動きを止めちゃうよ!
  いでよ! 万象起神、マザー・テンミリオン!!」
tink「そんな――!」

魔王の魔力が孵化した。
すべての生命をつかさどる女神は、あっけないほど簡単に引きずり出された。
クロウは精一杯に叫んだ。
claw「全員退避しろぉ――っ!!
  その魔法は、生命時間を加速させるぞ――っ!!」

その射程範囲から、もっとも近くにいたルファには退避の時間がなかった。
ミドリがルファのもとへ飛び込んだ。
midori「ルファ!! 魔力、がぅ!!」

知力の髪飾りによって強化された魔力を、ルファは受け取った。
ルファは魔法を発動した。
lufa「スキルZコード、ズース!!」

時間を凍らせる全知全能の神が、生命の女神と衝突した。
互いの力は拮抗して、その効力を打ち消し合った。
lufa「く……!」

全魔力をふりしぼるルファの前で、魔王はにやりとゆがんだ笑みを浮かべた。
darkspirit「万象起神は無効化されてるねえ、でもこれが狙いさ。
  僕のコピー能力は技の威力まで完全再現だから、一見すると君たちと互角に見える。
  でもね、今の君みたいに、君たちは強力な魔法を維持しようとすると他の魔法が使えない。
  僕と違ってね」

顔をルファに向けながら、魔王は左にクリムゾンマーキュリーを放った。
magenda「くっ……!」

放たれた炎を、戦士たちはそれぞれの特技でしのいだ。
それによって、彼らは消耗した。
魔王は笑顔でルファに話しかけた。
darkspirit「今の場合だと、ルファ、君の氷の魔法が使えれば炎を相殺するのは簡単だったよね。
  でも君は、僕が万象起神を維持し続ける限り、氷の魔法を発動できない。
  これが君たちの不利な点のひとつ。
  そしてもうひとつの不利な点は、これだ……
  ジルバット、召喚!!」
zilva「! しまっ――」

魔王の魔力に引き寄せられて、ジルバットが魔王の腕の中に収まった。
ジルバットの首筋に指先をはわせながら、魔王はニヤニヤと笑った。
darkspirit「君たちの見せかけの互角は、雷撃を封じたうえで成り立っている。
  だからジルバを殺せば、その互角は簡単に崩れちゃうね?」
zilva「っ……!」

ブロントが急いで魔力を発動した。
blont「ジルバット、召喚!!」

ジルバットはブロントの手元に引き寄せられた。
ジルバットは冷や汗をかいてブロントに礼を言った。
zilva「た、助かったぜブロント……」
blont「いや、まだ全然、助かってない……」

魔王はにいっと笑った。
それから再び魔力を発動した。
darkspirit「ジルバット召喚!!」

ジルバットが再び魔王の手中に向かった。
ブロントは負けじと唱えた。
blont「ジルバット召喚!!」

ジルバットが来た道を引き返した。
両者は互いにゆずらず、魔力を発動し続けた。
darkspirit「ジルバット召喚!blont「召喚!darkspirit「召喚!blont「召かzilvaいでででででで!!」

ブロントと魔王の中間で、ジルバットはびんよよーんと引き伸ばされていた。
魔王は軽く魔力を維持しながら、汗をしたたらせるブロントに笑いかけた。
darkspirit「やれやれ、決着つかずだね。
  まあこれでブロントとジルバは行動不能だけど。
  ねえ?」

ブロントはギリリと歯ぎしりした。
ティンクから、苦しまぎれにメテオが放たれた。
魔王はそれをちらりと見て、それからにやりと笑って唱えた。
darkspirit「翔けろ、天馬の靴」


    

天馬の靴と同種の魔力を操って、魔王は空中を跳ねた。
メテオは地面に激突した。
魔王はそのままの勢いで、ティンクのもとへと詰め寄っていった。
tink「ううっ――!」

魔王が攻撃の動作に入った。
それより一瞬早く、リンが二人の間に割り込んだ。
rinn「気功波・竜虎砲!!」

竜の牙と虎の爪から染み出した威圧が、エネルギー弾となって魔王を襲った。
魔王はにたっと笑って唱えた。
darkspirit「ギブ・ミー・フィアス・ベロシティ、疾風の指輪」

魔王は風の加速を得た。
そのスピードで連続で魔力を繰り出して、気功波を打ち砕いて跳ね返した。
rinn「うあっ……!」

リンは吹き飛ばされて地面を転がった。
blues「リンさんっ!!」

ブルースが名前を呼びながら駆け寄った。
魔王は大声であざけった。
darkspirit「ハハハハどうだい!? 彼氏の技でやられる気分は!?
  ゾクゾクするね? そうだろう!?」

魔王はそれから振り向いた。
濁流する深紅の水銀が、魔王に向けて押し迫っていた。
その奥で必死の形相をしているマゼンダを見下ろしながら、魔王は唱えた。
darkspirit「スキルAコード、アブソリュート・ゼロ」

炎は絶対零度領域に当てられて、氷のアートと化した。
マゼンダは戦慄した。
凍った水銀の向こうで、魔王は貼りつくような笑みを投げかけていた。
どうしようもなく震える足を押さえながら、マゼンダは自分に言い聞かせた。
magenda「駄目……逃げちゃ駄目……!
  どんなに相手が強くたって、みんなの力を合わせれば……」
darkspirit「強がるなよ?」

その瞬間、マゼンダの視界がゆがんだ。
magenda「あ……っ?」

マゼンダはふらついた。
焦点の合わない視界でうつむくマゼンダに、歩み寄る魔王の言葉がのしかかった。
darkspirit「気づいてるはずだろ、君はもう。
  僕には勝てないんだ、たとえ全員の力を合わせても。
  僕のもとに来なよ、そうすれば、何も苦しむことはないんだ」

マゼンダは頭をかかえた。
magenda「こ、これは……! シャアスラの洗脳能力……!
  や、やめて……! あたしの中に、入ってこないでえええっ!!」

マゼンダはクリムゾンマーキュリーを放出した。
魔王は、それをあえてよけなかった。
高圧の炎を食らって、焼かれながら押し流された。
全身に炎をさらされながら、魔王は叫んだ。
darkspirit「熱くねえぞ――――っ!!」

その瞬間、炎のエネルギーが魔王に取り込まれた。
鬼神ジルバサラの魔力が、そこに発生した。
流され終わった鬼神は、その憤怒の形相を間近の人間に向けた。
もっとも近くにいたのは、リンだった。
blues「っ――」

ブルースの行動は早かった。
少なくとも、魔王の炎からリンを守る盾にはなれた。
そしてその行動がスローモーションに見えるほど、あっけないほど早く彼は黒く焼けこげた。
rinn「――ブルースさん?」

展開の素早さに、リンの思考は一瞬取り残された。
そしてその思考が現実に追いついたとき、リンは真っ黒な人型を抱き起こして呼びかけていた。
rinn「ブルースさん? ブルースさん!?
  ブルースさんブルースさんブルースさんっ!?」

リンの呼びかけは、返事もなく空間をさまよった。
ブルースの有り様を目の前にして、引き伸ばされたジルバットがうめいた。
zilva「マ、マジかよ……?
  ブルースが……死んだ……!?」

魔王の舌打ちが、部屋に響いた。
冷たい目で黒い人型を見下ろしながら、魔王は吐き捨てた。
darkspirit「ウザスだよお、風の魔力で防御された。
  それ、まだ死んでないや。
  そのままにしとくのはウザスだから、トドメを刺さなくちゃあ」

魔王がゆらりと一歩踏み出した。
その背中に、剣を持ってクロウが詰め寄った。
魔王は首だけ振り返った。
クロウはその目を見すえながら、剣を振った。
claw「白桜乱舞枝垂桜(ハクオウランブシダレザクラ)」

回転によって生じたいくつもの白い斬撃が、空中で引力に引かれるように魔王へ向かった。
魔王は微動だにせずにその切っ先を見た。
そしてニヤリと笑って叫んだ。
darkspirit「エターナルエミュルシフィケーション・マヨネーズ!!」

魔王の魔力が、乳白色に変わった。
そのドロドロした魔力は魔王を取り囲んで、斬撃をすべて受け流した。
魔王は、ブロマヨーネの力を得ていた。
claw「くそ……!」

魔王は体をクロウに向けた。
そしてクロウに右手を突き出して、言い放った。
darkspirit「遠距離回復しかできない無能は下がってろよ――コレステロール・クラッシュ!!」

魔王の右手から、大量のマヨネーズがビュルビュルと発射された。
クロウの体は、汚されながら押し倒された。
claw「ぐはっ……くっ、これしきの攻撃で……」

クロウは立ち上がろうとした。
その口から、血がこぼれ落ちた。
claw「!? ぐふっ……」

クロウは血を吐いた。
うずくまるクロウの前で、魔王は揚々と語った。
darkspirit「コレステロール・クラッシュは、高コレステロールの食品を操作する技。
  さらにコレステロール単体を操作することも可能。
  僕のドロドロ魔力は、おまえの体に注がれた。
  おまえの体内のコレステロールが、善玉悪玉関係なくおまえ自身を切り刻む。
  そして!!」

魔王は振り返って、リンにマヨネーズを発射した。
rinn「きゃあっ!!」

マヨネーズに切り裂かれて、リンの胸の谷間が大きくはだけた。
セクシー度が上昇したマヨネーズまみれのリンを見て、魔王は鼻血を噴きながらのたまった。
darkspirit「僕は最強の覚醒をする……! 君たちを完全粉砕するために……!
  このリンはそのための妄想の材料だ!!
  行くぞ!! ぬぬぬぬぬぬ、ヌードルぅ――――!!」

魔王は鼻血をまき散らしながら覚醒した。
魔力は、青く輝いた。
その姿を目の当たりにして、ジルバットが思わずうめいた。
zilva「で……出ちまった……!
  最強最悪の……一番、デッケーのが……!!」

魔王は、妄想天使に変身した。
その青い巨体にゆがんだ笑みを貼りつけて、魔王は宣言した。
darkspirit「妄想天使ブルーマグマ魔王、ブニュっと参上★」


    

ねばつくような妄想の魔力が、床の上を這っていった。
テミはそれを、うつ伏せに倒れたままぼう然と感じていた。
合体攻撃を粉砕されてから、テミはずっと心神喪失していた。
そこへ不意に、声がかかった。
claw「テミ!! おまえが止めるのだ!!
  あの妄想天使は、妄想天使にしか止められん!!」

テミは声の方に首をねじった。
流血とマヨネーズにまみれたクロウに、テミは弱気な顔を見せた。
temi「無理だよぅ……私の力じゃ、魔王には勝てないもん。
  それに、妄想天使に変身するには妄想のネタが足りないよぅ」

クロウは半ばヤケクソ気味に怒鳴った。
claw「妄想のネタがないのなら作ればいいだけだ!!
  そのために食らえブロント、白桜乱舞マヨバスター!!(ずばしゅー)」
blont「イヤーン!!(びりー)」

白桜乱舞の剣圧で飛ばされたマヨネーズが、ブロントの服を切り裂いた。
ブロントの露出が上がった。
テミはそれを、ほとんど条件反射で凝視した。
輝く鎖骨、ぷりんとした半ケツ、フェロモン満載のわきの下、そしてしたたるマヨネーズ。
そのどれもが、テミに最大限の妄想力を与えた。

テミは十倍速で覚醒した。
temi「キュピピキュピキョペキョё≪[ыШ¶★ゞЪ#Ф$ж☆♀
  (スロー再生:炎よりも熱く……! マグマよりも熱く……!
         空に輝く星も、高温の星ほど青く輝く!!
         愛と妄想の力を借りて、変態的にトランスフォーム!!)
  妄想天使ブルーマグマテミ、ブニュっと参上☆」

そしてブルーマグマテミは、正面を見すえた。
ブルーマグマテミから少し距離を置いて、紫色の床の上に、ブルーマグマ魔王は君臨していた。
ブルーマグマ魔王は、冷ややかな笑みをブルーマグマテミに投げかけた。
darkspirit「出てきたね、妄想天使。
  僕の完全勝利を決定づけるには、やはりソレを完全粉砕するのが一番だ。
  妄想天使としてのステータスは互角……そして僕にはもっと多彩な技がある……
  崩すよ、テミ……君たちに絶望を与えるために!!」

ブルーマグマ魔王は動いた。
距離は一気に消え去った。
高エネルギーの正拳突きが、ブルーマグマテミを襲った。

吹っ飛ばされたのは、ブルーマグマ魔王だった。
darkspirit「え……!?」

かなり後方にあったはずの壁に、その巨体が叩きつけられた。
生じた衝撃波に、吐き出した苦痛の息はかき消された。
脳が揺らいだ。
ぶれる視界をなんとか制御して、ブルーマグマ魔王は前を見た。

ブルーマグマテミは、正拳突きの構えをしていた。
それはブルーマグマ魔王が放ったものと同じ技のはずだった。
ただひとつ、魔力が違った。
ブルーマグマテミがまとう魔力の中に、白い光が混じっていた。
その正体を、魔王は知っていた。
darkspirit「ク……ロウ……!?
  その光は……クロウが、ホワイトメテオを発動するときに使った……!?」

ふっとクロウが鼻で笑うのを、魔王は確かに聞いた。
ブルーマグマテミの後方で、杖を光らせながらクロウは語った。
claw「パラディン能力の付加。
  これによって、ブルーマグマテミのステータスを上昇させた」
darkspirit「――っ!!」

魔王はがく然とした。
魔王のコピー能力は、今まで使われた技を威力も含めて完全にコピーする技だった。
それはすなわち、今までより技の威力を上げられれば勝ち目がないということ。

魔王は歯を食いしばった。
darkspirit「だが、その強化能力もコピー対象、僕だって使える……!
  使えるが……!」

魔王の言葉を受けて、クロウが続けた。
claw「使えるが、使いこなせまい。
  なぜなら俺は、この能力を遠回復の杖を媒介にすることで発動しているからだ。
  遠回復の杖の最大の特徴は、その効力を自分自身にかけられないこと。
  すなわち貴様は、自分自身を強化することはできない!!」

決定的だった。
上昇させられたステータスは、もはや超えられない壁として魔王に立ちはだかっていた。
だが、と魔王は息を巻いた。
darkspirit「それはクロウ、君が戦闘不能でないことが条件!!
  君さえ止めてしまえば問題ない――スキルZコード、ズース!!」

魔王は氷の最上級魔法を発動した。
ズースを止められるのは、同じ神クラスの魔法であるマザー・テンミリオンだけだった。
クロウがそれを発動するために杖を使えば、強化能力は防げる算段だった。
少なくとも、さっきまでの経験ではそれが有効なはずだった。

ズースは何者かの右手に止められた。
それはルファのズースだった。
白い光をまとったルファのズースは、両手でズースとマザー・テンミリオンとを抑えつけていた。

白いズースの背後で、ルファがにっこりと笑った。
lufa「最上級魔法のズースを、さらに強化してランクアップさせました。
  これによって、『時を凍らせる魔法の時を凍らせる』ことに成功しています」
darkspirit「……!! ッ」

冷や汗が流れた。
魔王の耳が、ひどく耳鳴りを起こしていた。
その中でティンクの声だけが、いやにはっきりと聞こえた。
tink「恐怖も絶望も、すべてあたちの必殺技で打ち壊すっす……!
  真沙羅(マサラ)に吸い込め!! 銀河流星乱舞(ギンガリュウセイランブ)!!」

強化されたメテオが渦巻いた。
その白い渦は引力を発生させて、すべてを飲み込まんと魔王に迫った。
魔王はあせる気持ちの中で、対処法を考えた。
darkspirit「その技は知っている……弱点も判明している……!
  メテオをひとつでもはじき飛ばせば、回転運動が乱れて崩壊する……!
  そんな技は敵じゃない!! ソルブラッド・メテオストリーム!!」

赤い弾丸が、幾千も渦に向かって撃ち込まれた。
そしてその弾丸は、強化されたメテオをはじき飛ばすことはできなかった。
darkspirit「く……っ!!」

魔王は歯ぎしりした。
そしてそのときには、すでに彼の体は引力圏に入っていた。
ふわりと宙に浮いた魔王に向かって、ティンクはつぶやいた。
tink「骨の髄まで、粉になれっす」

魔王は渦に食われた。
悲鳴を上げる間もなく、白いメテオは魔王の骨を噛み砕いた。
絶望の表情が、残像のようにくっきりと流れた。



そしてそのとき、空間がゆがんだ。



気づくと、魔王は部屋の中央にいた。
そして十人は、魔王に対峙して横一列に並んでいた。

瀕死の重傷を負っていたはずのブルースが、口を開いた。
blues「時間が……戻った……?」

魔王はニイッと笑った。
二本になった角を光らせながら、魔王は喋った。
darkspirit「ディープゲーマー・第二のパンドラ……究極緊急回避釦(リセットボタン)。
  ボス戦前のセーブポイントから、戦いはやり直しだ」


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魔王の城(後編) ―究極緊急回避釦―

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