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第1ステージ 草原
▲ 1 ▼
天気は快晴。風は優しくそよぎ、心地よい。
眼前に広がる草原は赤青緑にまだらになって、美しいという形容がぴったりだった。
「って赤青緑の草原? どうなってるの?」
「そんなの気にすることでもないじゃないか。
それよりほら、いい風だよ」
テミのツッコミも軽く流して、ブロントは風にその美しい金髪を預ける。
雄大な景色に微笑みを投げかけ、髪を揺らすその横顔は綺麗だった。
同性でも思わずドキッとしてしまうほど、今のブロントは美しかった。
「ブロント君、綺麗、素敵、かっこよすぎる……。
いけない、鼻血が出てきた」
あわてて詰め物をして、自分も景色を楽しもうとする。
だがテミには、どうしても気がかりなことがあった。
「景色が動いてる……」
眼を細めたり前のめりになったりして確認してみる。
確かに動いている。赤い部分と青い部分がうねうねうねうね……

×大量「ギピー!」
「きゃああああモンスター!!」
つまり草原の赤と青はウィスプとスライムの大群だったのである。
思わず悲鳴を上げたテミだが、それも仕方ない。何しろ数が尋常ではない。
この広い草原で赤と青と緑が地平の果てまで同じくらいの比率なのだ。
そしてそれら全員がブロテミめがけて襲ってこようとしているのだからいくら雑魚モンスターといっても怖い。
その迫力はまさにディープインパクト、世界を揺るがすツナミドドンパ襲来である。
「これはちょっと大変だな……。よしテミ、合体攻撃だ!」
「へっ? きゃっ!?」
突然ブロントは、テミの両足をつかんで持ち上げた。
「必殺! ハイパートルネードテミハンマー!!」
「あぁ――――れぇ――――」
▲ 2 ▼
ブロントはテミの両足を持って、ものすごいスピードで回りだした。
当然テミは振り回される格好になり、声にならない奇声を発しながら目を回していた。
「ああああああああああああ」
その回転は秒間百回転を超え、ブロントを中心に巨大な竜巻を巻き起こした。
竜巻はモンスターたちを巻き込み、さらに暴走を続けた。

「ギピイィィィ……」
十数分後。周辺には大量のモンスターの死骸と、目を回した一匹のテミが転がっていた。
「さあ、もう大丈夫。行こうか」
「ぶっ、ブロント君っ……」
何事もなかったように先へ進もうとするブロントに足元ふらつきながらテミはつかみかかった。
「ひどいよひどいよブロント君、私をこんな使い方するなんて!
目が回って目が回ってふらふらふらふら……」
髪を振り乱し、平衡感覚がおかしくなって焦点の定まらない目から涙をまき散らすテミの様子は不気味だ。
「はっはっはテミ、これくらいで目を回してたら世界中の皆様に失礼だよ」
ブロントはテミの両肩を優しくつかんで、甘い声で囁いた。
「だって、これから世界は僕らを中心に回りだすんだから」
「ブロント君っ……www」
ブロントの言葉の甘さにいざなわれて、甘い甘い桃色の領域が二人を包んだ。
そして事態は何事もなかったように収まってしまった。
果たしてそれでいいのかテミさん、許してしまっていいのか?
「さあ、先に進もう」
???「待ちな!」
先に進もうとしたブロテミを、何者かが呼び止めた。
???「先に進みたいなら草原のボスである俺を倒してからにしな!」
二人は振り向いて、その姿を確認した。そして、驚愕した。
「なっ、何で君が……」
「まさかっ!?」
▲ 3 ▼
ブロントとテミは絶句した。
二人に立ちはだかったのは、ジルバだった。
ジルバが、二人に槍を向けて、立ちはだかっていた。
「さあ、どうすんだブロント? 戦うか、それとも降参するか?」
「どうして? どうしてジルバ君が草原のボスなの?」
テミは信じられないといった面持ちで、ジルバに問いかけた。
「作者に勝手に配備されたんだ」
「なっ……何てことだ……ストーリー上不要だからって言ってたのに、
作者は僕をだましていたのか!?」
ショックを受けてブロントはその場に座り込んだ。
どうでもいいが作者がどうとか言うのはギャグ小説だから許されるということを肝に銘じていただきたい。
「ま、そんなことは関係ねえ。それよりブロント、俺は、おまえと戦いたい!」
槍をまっすぐ構えて、ジルバはブロントに勝負を持ちかけた。
ブロントは座り込んでいたが、ジルバの言葉を聞いて立ち上がった。戦士の目になっていた。
「分かった。君がそう言うなら、僕も全力で相手しよう」
「ブロント君かっこいい……vvv」
ブロントは剣を抜き、ジルバと向き合った。剣を上段に構え、鋭い目をジルバに向ける。
ジルバは槍を両手に持ち、地面と平行に構えた。目つきはやはり、鋭い。
緊張感が広がった。聞こえるのは風の響き渡る音のみ。静寂が辺りを包み込んでいる。
「で、開始の合図はどうするの?」
「あ」
テミがフライパンを叩いた。
「ファイト――!!」
「はええっての!!」
瞬間だった。
ジルバがツッコんだそのときにはもう、ブロントとの距離が一気に縮まっていた。
「早いのはテミがかい? それとも僕がかい?
違うね。君が遅いんだ。
教えてあげるよ、素早さと移動力の差を」
▲ 4 ▼
ブロントの剣がジルバの鎧と接触し、短い音を立てた。
一瞬の隙を突いて、投槍による二撃目が飛んだ。
「ちっ!」
しゃがんでなんとかかわしたジルバは、その勢いでブロントの脇をすり抜けて背後に回った。
ブロントもサイドステップでその場から離れる。
鋭い音がしたかと思えば、ブロントがさっきまでいたところには槍が斜めに突き立てられていた。
「くらえ!」
攻撃直後で体勢の崩れたジルバに、ブロントは足払いを放った。
だが重い鎧は重心が低いのか、ジルバは少しよろけただけですぐに攻撃態勢に移った。
「接近戦はいささか分が悪いね。でも」
ブロントは素早く後方へと移動した。
移動力の差をついて投槍で攻撃する手はずだった。
だが。
「がっ!?」
ジルバはそれ以上に速かった。ブロントに追いついた。
攻撃を食らわせたジルバは、勝ち誇ったようにあざ笑った。
「はーっはっは! 俺がどうして草原のボスになったと思ってるんだ!?」
「ま、まさかそれは……」
ジルバの靴には、独特の複雑な紋様が描かれていた。
それはまさしく、伝説の靴、天馬の靴であった。
「君が手に持ってるそれは、マゼンダの(ピー)写真ではないか!?」
「わっわわっ馬鹿っ大声出すな!!本人がいたらどうすんだよ!?」
「せっかくシリアスっぽくなってたのに台無しだよ!
それとブロント君私以外の女性に惹かれた!
うえ〜〜んひどいよう〜〜」
この物語はあくまでギャグ小説なのである。
▲ 5 ▼
「ともかく、この状況は不利ということになるね……」
ブロントは考え込む仕草をした。
さっきまでのブロントの作戦は、移動力の差を生かして間合いを取り、
ジルバの攻撃が届かない位置から投槍で攻めるというものだった。
移動力に頼れなくなった今、攻撃力と守備力の高いジルバが圧倒的に有利だった。
「まともに戦っても勝機はないか。仕方ない、作戦を立てよう」
「へんっ、小細工は通用しないぜ?
装備を取り上げでもしない限り、おまえに勝ち目はないぜ!」
ブロントは少しうなずいてから、後ろを振り返って言った。
「テミ、服を脱ぐんだ!」
「へっ?」
「はああああっ!?」
テミは一瞬呆気に取られ、ジルバは絶叫した。
「おとり作戦だよ! ジルバの気をそらすんだ! さあ!」
ブロントの手がテミの服のすそをつかんだ。
「えっ、ちょっ、イヤッ……
大胆なブロント君は好きだけど、ここで脱ぐのはイヤ〜!!」
服を引っ張るブロント、必死で抑えるテミ。
目の前で繰り広げられる悩ましき行為に、ジルバの心の中で天使と悪魔が格闘した。
『ジルバ、あなたは何を考えているのですか?
困っている女の子を助けてあげなさい!』
『へっへっへ、何を迷うことがあんだよ?
見せよーとしてるモンを見なきゃソンだろー?』
『悪魔は黙ってなさいよメテオー!』
『ぐあっ! やりやがったなーお返しだファイア弾ー!』
「俺の心の中で魔法使うなー!!」
頭から煙を上げながら、たまらずジルバは天に向かって叫んだ。
ブロントの手が伸びたのはそのときだった。
▲ 6 ▼
とっさに反応したジルバだったが、遅かった。
ブロントの手は、ジルバの兜をしっかりつかんで持ち上げていた。
ジルバの茶色い髪が露(あらわ)になっていた。
「まんまと作戦に引っかかったね。
君を動揺させて兜を奪う作戦だったのさ」
「なっ、なんだとお!?
じゃあ、最初からテミを脱がすつもりはなかったって言うのか!?」
ショックを受けるジルバ。ショックの内容が少々気になるがスルーの方向で。
「二手三手先を読むのが戦略さ!
僕は初めからテミの色気なんて期待してないよ!」
「ブロント君、ひどい……」
色気に期待してないと言われてテミは落ち込んだ様子だった。
ブロントはそんなテミに甘い声でささやいた。
「君に僕以外の誰を悩殺する必要があるんだい?」
「ブロント君っvvv」
たちまち桃色ビジョンが展開され、二人は二人だけの世界に入っていった。
誰も踏み込めない、甘い甘い世界。
その光景を見せ付けられた彼女いない暦イコール実年齢のジルバは、我慢ならなかった。
「だ―――もーうざって――!!
兜を取られたからって俺にはまだ天馬の靴が残ってるぜ!!」
刹那、ジルバはブロントに詰め寄った。
槍の先がカップルの中間の空を裂き、二人だけのアナザーワールドは音もなく崩壊した。
「モテないからってひがむなよ☆」
ブロントの声が届いた次の瞬間には、すでに金属の打ち合う音が展開されていた。
その真剣な眼差しのブロントを見て、テミは再び鼻から出血しそうになった。
「くそっ……! やりにくいぜ!」
天馬の靴がある以上、物理的に言ってこの局面はジルバがさほど不利というわけでもない。
問題はむしろ精神面にあった。
全身をがちがちに固めて戦ってきたジルバにとって、
兜無しではどうしてもそこを心配しすぎてしまうのである。
▲ 7 ▼
「兜を取られただけで随分と逃げ腰になったね?
まだまだ僕に勝つのは無理なようだな!」
余裕の笑みを浮かべて、ブロントは次々と顔面に向けて攻撃を放った。
剣、槍、時には拳や膝、目潰し、猫じゃらし、打ち上げ花火にマグナム砲、アルテマウェポン……
「なんか変なもん飛んでっぞ〜〜!!?
俺を殺す気か――――ッ!!!??」
「当たり前じゃん」
ほんの一瞬。二人の体勢が大きく揺らめいた。
テミが瞬きをしている間に、決着はついてしまった。
ジルバは仰向けに倒れ、その喉元に鋭い切っ先が向けられていた。
「糞が……ッ!」
悔しそうにギリリと歯を食いしばって、ジルバは手近な草を力いっぱい握りしめた。
緑色の汁がジルバの手を染めた。
「君の敗因は心の安定を崩したこと。
兜を取ったのもその後の戦い方もそのための罠なのさ。
作戦にかかった君は動揺し、下半身、特に足払いの警戒を怠った。それだけのことさ」
冷ややかな視線で、ブロントは淡々と述べた。
ジルバの目視できそうなほどの激しい悔しさと怒りの炎と対峙して、
その冷たさはいっそう深く感じられた。
「さて」
冷たい雰囲気を消して、テミに声をかけた。
「経験値を均等に分けないとね。
僕はもう十分だから、後はテミ、君の分だよ」
「うん、分かった」
返事をしてテミは、短剣を逆手に構えてジルバのそばへ歩み寄った。
「へっ? まさか……ちょっと待てオイ……」
「大丈夫、苦しいのはほんの一瞬だけだ」
「私たちのためと思って我慢してくださいねー」
「ちょ、ま、待てオイ、あ、やめ、
ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」
※しばらくお待ちください
「ふう、意外とてこずっちゃったね」
「まあ、急ぐ旅でもないし、ゆっくり行けばいいよ。
ああ、もう日が暮れてる。夕日が綺麗だ」
西の空で夕日は赤々と輝き、辺りのものを緋色に染める。
そして二人の服は別の理由で赤く染まっている。
広がるのは赤。夕日に染め上げられた赤い空と草原が、ただ広がるのみ。
ブロントも、テミも、ジルバだった物体も、誰も動こうとしなかった。
その赤は葡萄酒のように、心を酔わせた。
〜草原Clear!〜
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第2ステージ 蜂の巣
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