目次
▼1
▼2
▼3
▼4
▼5
▼6
▼7
▼8
▼9
▼10
▼11
▼12
最終ステージ 魔王の城(前編)
▲ 1 ▼
周りの空は青いのに、その場だけが真っ黒い雷雲に覆われていた。
その雷雲を目がけて、濃紫の城はそびえ立っていた。
その色は、ただ妖しく。
その存在感は、ただ重苦しく。
その黒い威圧を押しのけて、ブロントたちは城の前に到着した。
雪にまみれて。
「雪原抜けるだけでなんで二週間もかかるんだよ……(ガチガチブルブル」
「それは作者がオリジナル小説を平行して書いてるからです」
「誰も現実世界の話なんてしてねぇよ!!」
「途中で道を間違えたり吹雪がまた吹いてきたりしたからね〜」
「あんたたちがイチャついて桃色ワールドで地形を変化させるからよ。
二週間で合計四三二回とかどれだけ欲求不満なのよ」
「マゼンダ……『欲求不満』では読者にあらぬ妄想をさせてしまいますよ」
けんけんがくがくの言い合いが始まりかけた。
ブロントは咳払いをして、みんなを注目させてから言った。
「みんな、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ。
持てる力をすべて出して、必ず魔王を倒そう。
さあ、突入だ……!」
ブロントは大きな城の扉に手を置いた。
その瞬間、ブロントの体に電流が走った。
ブロントは反射的に手を引っ込めた。
そして奥歯を噛みしめた。
「くっ、さすが魔王の城、僕たちを退けるトラップはバッチリか……!」
「ただの静電気だろうが。
というか静電気を溜め込むような材質なのか、この城の扉は」
「仕方ない、ここは一旦退却だ……」
「おい」
クロウはブロントを鉄の塊で小突いた。
それからその鉄の塊を扉に押し当てて言った。
「適当な通電物質で静電気を除去すれば問題ないだろう」
「待て、それは俺だから。
鉄の塊はジルバという人間だから」
「あんたは鉄の塊で間違いないしなんの問題もないじゃないのよ」
「マゼンダ……これでも俺、おまえの彼氏なんだけど……」
横のごたごたと鉄の塊は置いといて、クロウは扉に手を当てて押した。
扉は、きしむような音を立てて開いた。
その瞬間、その場にいた全員が戦慄を感じた。
濃紫で統一されたほの暗い城の内側から、切り刻むような威圧が流れてきた。
ブロントはにやりと笑って言った。
「いるね」
「ああ。それも大量に、な。
俺たち十人に対して、ずいぶんと丁重な出迎えだ」
「どうしますかブロント?」
ルファに尋ねられて、ブロントは笑みを崩さずに答えた。
「決まってる。
全員で一気に、突撃だ!!」
ブロントの掛け声と同時に、十人は突撃した。
▲ 2 ▼
全員が城の内部に入った途端に、モンスターたちは一斉に飛びかかった。
オーガー、ゴブリン、コボルト、ガーゴイル。
四方八方を埋め尽くしてうなり声で空気を震わせ、行く道も見えないほどだった。
ブロントたちは武器を振るって、第一陣をなぎ払った。
だがそのすぐ後ろに、新たなモンスターの弾幕が迫っていた。
クロウはブロントに言った。
「ブロント、鉄の剣で構わない、剣をよこせ」
ブロントはクロウに目を向けた。
そして尋ねた。
「左手一本で剣を扱えるの?」
クロウは鼻で笑って、そして口を開いた。
マゼンダたちの高圧の魔力が、モンスターの第二陣を迎え撃った。
崩れ落ちるモンスターたち、それでも後ろには大量のモンスターが迫って、道は開かない。
そしてブロントとクロウは一歩前に出た。
ブロントは右手にミスリルの剣を、クロウは左手に鉄の剣を持って、荒れ狂うモンスターたちに対峙した。
そしてその手が届こうとしたとき、二人は回転して攻撃の舞を放った。

「「白桜乱舞八重桜(ハクオウランブヤエザクラ)!!」」
白い斬撃が、重なり合って飛び散った。
互いに逆の回転をした二人の剣は、互いの剣をはじき合って予測不可能の多重全体攻撃を生み出した。
八重桜のような白い花弁はすべてのモンスターを切り刻んで貫き、空間全体に飛散した。
モンスターたちは、そのすべてが戦闘不能になった。
そうしてはじけ飛んだモンスターたちの隙間に、バラバラの方向に伸びた五本の道が見えた。
それを見て、マゼンダがブロントに尋ねた。
「あれ、どう見ても誘ってるわね。
どうするのよリーダー、このまま固まって進むか、それとも五チームに分かれるか?」
ブロントはにっと笑って返した。
「誘ってるなら、誘われてやるさ。
ヒーローっていうのは、アウェイで活躍するものさ!」
ブロントは仲間たちを振り返った。
異論の空気はなかった。
ブロントはそれを確認して、朗々と指示を出した。
「よーしみんな! ここからはカップルごとに分かれて進もう!
リーダーとしての指示はただひとつ! 『全員魔王のいる場所へたどり着くこと』!
それじゃあ、解散!!」
全員はうなずいて、それぞれに違う道へ走り出した。
「っしゃー!! 久々に活躍できるチャンス、腕が鳴るぜー!!」
「飛ばしすぎて魔王戦でバテないようにするのよ」
ジルバとマゼンダは、右手方向の道へ。
「正直、僕の力でどれだけやれるか不安だけど……」
「や、やれるだけ頑張りましょう!
それじゃあ皆さん、足手まといにならないように頑張りますから!」
ブルースとリンは、上層階へと続く上り階段へ。
「どんな強い敵が出たって、クロ兄はあたちが守るっすよ!」
「ふざけるな、貴様ごときに守られるほど俺は弱体化してはいない。
むしろチョコマカ動き回って俺の足を引っ張ることのないようにするんだな」
クロウとティンクは、左手方向の道へ。
「さーて、誰が最初に魔王の元へたどり着けるでしょうかね?」
「がぅっ、競争、みんなで、がぅ!!」
ルファとミドリは、地下へと続く下り階段へ。
「ぴゅ〜だらだらだら」
「ほらテミ急いで!
主役が遅れてちゃ話になんないよ!!」
ブロントは白桜乱舞八重桜に巻き込まれたテミを引っ張って、正面へ伸びる道へ。
それぞれの戦いに向けて、飛び込んでいった。
▲ 3 ▼
細い道を抜けた途端、前の部屋の再現とばかりに大量のモンスターが襲いかかってきた。
マゼンダは素早く魔力を練り、そして放出した。
「クリムゾンマーキュリー!!」
高温、そして高圧の炎が、津波のように高くあふれ出した。
「深紅の水銀」の名を冠したその炎は、超圧縮された魔力によって物理的な質量を付加されていた。
モンスターたちは、焼ける前に押し流された。
「……タフね」
部屋の隅に押し流されたモンスターたちは、多少焼け焦げながらもすぐに立ち上がった。
オーガーの一体は、不敵に笑って言い放った。
「ふはははっ、なんの考えもなしにおまえらを誘ったと思うか?
バイオ改造された俺たちは、炎耐性バッチリだぜ!!」
そしてモンスターたちは躍り出た。
鋭い爪が、牙が、マゼンダを視界の中心に捉えて一直線に接近した。
そして次の瞬間、視界の天地が反転した。
「あれ?」
モンスターたちは、宙を舞っていた。
その下には、鋼鉄の槍を振りかぶったジルバがいた。
「翔けろ、天馬の靴」
モンスターたちがその姿を認識するより速く、ジルバの体は消えていた。
地面を確認するモンスターたちの背後、そのはるか上方に、ジルバはいた。
「でりゃあああ!!」
槍のひと振りで、モンスターの五、六体が衝撃波とともに叩き落とされた。
ジルバは空(くう)を蹴って地上に降り立つと、すかさず次の攻撃を加えた。
「だああああ!!」
大振りに繰り出されたジルバの一撃は、空中に残っていたモンスターを一度に殲滅した。
後続で出遅れていたモンスターたちが攻撃しようとした瞬間、ジルバの姿はその間近に詰め寄っていた。
「おせえっ!!」
ジルバは槍を突き立てて突進した。
モンスターの十体が、二十体が、ジルバ一人の馬力になすすべもなく押し負けた。
すべてのモンスターが串刺しともいえぬ肉団子状態になって、ジルバは咆哮した。
「てめえらは俺に勝てる要素がなさすぎんだよ!
カタくねえ、素早くねえ、パワーが足りねえ!
何よりてめえらは、愛を知らねえ!!
彼女もロクに作れねえてめえらが、この俺にどうやって張り合おうってんだ!!」
「あのー、私は女なんですが」
「るせえっ!!(ぐさー)」
「ぎゃあー(ざくー)」
ジルバはそれから、マゼンダのそばへ舞い戻った。
二人は辺りを見すえた。
ジルバが倒したモンスターたちは、急所に傷を負いながらなんでもないように立ち上がった。
ジルバはチッと舌打ちした。
「バイオ改造ってのは、カタくもねえのに死なねえのかよ。
心臓やってもダメみてえだから、一気に消し飛ばすしかねえな」
マゼンダは少し考えてから言った。
「『アレ』を使うときかしらね」
▲ 4 ▼
ジルバはぎくりとして、硬直しながら振り返った。
「……アレ、やるの?」
「やるの」
「絶対?」
「絶対」
「あー俺、もうなんか疲れちまったから」
(目がギランッ)
「ヤリマスゴメンナサイ」
立ち上がったモンスターたちは、うなり声を上げて再び襲いかかった。
刃物の軌道を延長した集約点で、ジルバは仁王立ちした。
そしてその攻撃が届こうとしたとき、ジルバは叫んだ。
「熱くねえぞ――――っ!!」
マゼンダの高圧の炎が背後からあふれて、ジルバの体を覆い尽くした。
ジルバの絶叫が、断末魔が、部屋中に渦巻いてこだました。
そしてその声が途切れたとき、ジルバは覚醒した。
閃光が、走ったように見えた。
モンスターたちの数体が、炎に包まれて崩れた。
ジルバの姿は消えていた。
モンスターたちの背後に、ジルバは、ジルバだったものはいた。
その身は灼熱にゆらめく炎をまとい。
その鎧は暗闇のような漆黒に染まり。
そしてうつむくその顔には、憤怒のごとき威圧が宿り。
マゼンダはその姿を見つめながら、凛と語った。
「ジルバットの破壊力。
ジルバリアーの耐久力。
ジルバズーカの機動力。
そこにあたしの魔力を重ね合わせて、ジルバは最強の鬼神に生まれ変わる。
そう、世界のすべてを破壊し尽くす、その鬼神の名は――」
鬼神は顔を上げた。
マゼンダの声と鬼神の声が、部屋の中に同時に響いた。

「「ジルバサラ!!」」
ジルバサラは駆けた。
そしてその一瞬で、モンスターの数体は蒸発した。
「ジャアアアア!!」
ジルバサラが槍を振るった。
魔力の射程内にいたモンスターたちはことごとく沸騰し、灰になって消滅した。
ジルバサラの背後にいたモンスターたちは、鬼神に対して攻撃をしかけた。
「ゲアッ!!」
ジルバサラは振り返らずに槍の石突(いしづき)を食らわせた。
モンスターたちは炎に包まれて、一秒で床の焦げ跡となった。
「キエアキョアァー!!」
ジルバサラは突っ走りながら槍を振り回した。
わずかでもかすったモンスターは、その時点で灰になった。
オーガーの一体が声を張った。
「お、おいてめえら、何もたついてんだよ!?
みんなでかかって押さえつけろ、みんなでー!!」
その声につられて、モンスターたちは一斉に飛びかかった。
八方から迫るモンスター、それを確認して、ジルバサラは槍を垂直に立てて魔力を集中させた。
そしてモンスターたちが間合いに届いた瞬間、魔力を爆発させて槍を連続で突き出した。
「ゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラゼラ
ゼリアウチャアァ――――!!」
某奇妙な冒険を意識したコンマ一秒ごとに繰り出される刺突が、モンスターを貫いた。
その魔力はとどまることを知らず、その肉片を突き出して後ろのモンスターにまで届いた。
モンスターたちは砕けた。
炎が、部屋の隅々まで行き渡った。
数秒ののち、部屋の中で立っているのはジルバサラと、「守りの指輪」のシールドで防御したマゼンダだけだった。
マゼンダはジルバサラに歩み寄った。
「ご苦労さんジルバ。もう覚醒を解いても……」
「ゼリアウチャアァ――――!!」
「股間にキック★」
「あうっ……」
ジルバは覚醒が解けて、股間を押さえてうずくまった。
マゼンダはさっさと向きを変えて歩き出した。
「さあ、遅れを取らないうちに進むわよ。
魔王のところに到着するのがビリッケツじゃあムカつくもの」
「ちょ、マゼンダ……置いてかないで……」
ジルバはシャクトリムシのように這って、マゼンダを追いかけた。
部屋の奥にあった小道に、二人の姿は消えた。
「あ、この体勢だとマゼンダのパンツ見えそう」
「クリムゾンマーキュリー」
「うあっちゃああ!!(ジュー)」
▲ 5 ▼
ブルースとリンは、部屋に入ったところで立ち止まった。
幾百、ともすれば幾千ものモンスターたちが、二人に視線と殺気を送っていた。
オーガーの一体が、声を上げた。
「へっ、誰が来るかと思えば、くそザコブルースじゃねえかよ。
てめえなんか敵じゃねえんだ、さっさとくたばりやがれ!」
「だだだ黙れ! おおおおまえらなんか、かか返り討ちにしてやるからな!!」
「だからタンカ切るときは震えるなって」
ブルースの後ろにいたリンは、ブルースに尋ねた。
「あの、ブルースさん、私も戦いましょうか?」
「あ、いえっ、僕一人で大丈夫です!
リンさんは危ないから下がっていてください!」
ブルースは振り返ってそう言って、汗で滑る左手の弓を握り直した。
オーガーは肩をほぐしながら呼びかけた。
「ふん、くそザコのくせに気取ってんじゃねえよ。
まあいいや、どの道やることは変わらねえんだ。
一人で戦うってんなら、別に構やしねえ。
ただし死ぬのは、二人ともだがな!!」
地面を蹴って駆け出す音に、ブルースは正面を向き直した。
鋭い武器が、爪が、すでに二人を目がけて雪崩のように迫っていた。
ブルースは目を見開いて、そのすべてを視界に捉えた。
そしてブルースの口から、言葉がこぼれた。
「ギブ・ミー・ベロシティ、疾風の指輪」
風の流れが、変わった。
「あれ……?」
オーガーは、突如現れた感覚に疑問を覚えた。
自分の胸の辺りを、手でまさぐって調べた。
矢が、刺さっていた。
オーガーは背後を振り返った。
ガーゴイルが、ゴブリンが、コボルトが、一様にその胸に矢を突き立てていた。
その状況を理解するのに、オーガーはしばしの時間を要した。
そしてそれより前に、ブルースの声が明瞭に届いた。
「そうさ、僕はザコだよ。
力も弱いし足も遅いし、打たれ強くだってない。
ブロントやクロウみたいな一級の戦士と比べたら、僕なんてゴミみたいな存在さ」
オーガーは正面を向いた。
そこにはブルースがいた。
そのブルースの眼光が、声が、風に乗って力強く響いた。
「そしてそれらすべての事実は、僕がリンさんを想う気持ちに何の影響も与えない」
風が沸き上がった。
モンスターたちは、背中に蟻が這うような悪寒を感じた。
その悪寒に押し出されて、モンスターの一部が逃げるようにブルースへと迫った。
ブルースはすでに構え直していた。
「篠突く穿ちの矢雨(しのつくうがちのやさめ)」
幾百もの矢が、一度のモーションで放たれた。
矢は指輪の導く疾風に乗って、さながら豪雨のように降り注いだ。
モンスターたちの全身が、それに貫かれた。
切り刻まれる感覚を、ブルースの声が駄目押しした。
「リンさんに触れれるものなら触れてみろ。
そのとき僕の矢は、ダイヤモンドをもつりゃにゅくぞ!!」
「…………噛んだ」
「噛んだな」
「ブルースさん……」
「…………」
▲ 6 ▼
「わわわわ笑ったヤツはみみみみんな切り刻まれちまええええ!!(ばしゅばしゅばしゅー)」
「震えるうえに逆ギレかよってぎゃあああああああ!!(ずばずばずばー)」
ブルースの逆ギレ矢雨によって、さらにモンスターが切り刻まれた。
ひと通り射終わると、ブルースは息を切らしてモンスターたちの様子を見た。
モンスターたちは、しかし再生を始めていた。
刻まれた肉片が集まって、再び肉体を形成していた。
ブルースはくちびるを噛んで漏らした。
「駄目だ……普通のモンスターとは、体の構造が違うんだ……
こんな攻撃じゃ駄目なんだ、もっと強い魔力で粉々にしないと、こいつら倒せないよ……」
ブルースは後ろを振り向いた。
リンの姿が、そこにはあった。
ブルースはリンの瞳を見つめて、そして言った。
「ごめんなさいリンさん、本当は僕一人で倒せば、使わずに済んだんですけど……
リンさんの『あの』能力、今ここでお願いできますか?」
リンはブルースの瞳を見つめ返した。
そして、優しく笑ってうなずいた。
「分かりました。
危険な能力ですけど、きっと大丈夫ですよ。ブルースさんが一緒なら」
モンスターたちの再生が完了した。
最前列にいたオーガーが、二人に罵声を浴びせた。
「はんっ、効かねーよ!! てめーの攻撃なんざしょせんザコだ!!
ザコが何したって結局なんにもなんねーん」
強烈な右アッパーが、オーガーの言葉を中断させた。
オーガーの体は空中高く放り上げられた。
周りにいたモンスターたちは、さっきまでオーガーがいた場所を見た。
そこにはリンがいた。
左手に虎の爪を、右手に龍の牙を装備して、その額にはハチマキが巻かれていた。
リンの顔は、さっきまでとはまったく違うものとなっていた。
次の瞬間、今までのリンからは想像もつかないような怒声がリンから炸裂した。
「この(ピー)どもめ!! てめえらなんか(ピー)して(ピー)で(ピー)してろ!!」
「ええええ何このキャラ――――!?」
モンスターたちの間にどよめきが走った。
そのどよめきと同じスピードで、リンはモンスターたちを蹴散らした。
両手から龍と虎のオーラをまき散らし、口から罵声をまき散らしながら。
「この(ピー)野郎! (ピー)男! ド(ピー)!!
このあたしが(ピー)して(ピー)して(ピー)してやるよこの(ピー)め!!」
「俺は(ピー)なんかじゃぎゃあああー!!」
「女王様ああー!!」
「ああんっもっと言ってブヒ〜vvv」
モンスターたちは次々に吹き飛んだ。
その様子を、ブルースは離れた位置で達観した面持ちで見つめていた。
「リンさんの恐るべき能力……
それは『ハチマキを巻くと強くなるかわりに性格が裏返って放送禁止用語を使いまくる』能力……!
あらゆる意味で恐ろしすぎるこの能力、僕がコントロールしなければ……!!」
リンは両手のオーラを爆発させて飛び上がった。
モンスターの数体を巻き込みながら、リンの体は天井に張りついた。
そしてブルースに呼びかけた。
「おい(ピー)ブルース!! こんなんじゃらちが明かねえ、合体攻撃やるぞ!!」
「ぼ、僕は(ピー)なんかじゃないっ!!」
それでもブルースは、素早く合体攻撃の準備に移った。
弓を構え、大量の矢を一度につがえ、そして疾風の指輪に魔力を込めた。
「ギブ・ミー・フィアス・ベロシティ、疾風の指輪」
高密度の風が、ブルースの周りを絞るように取り囲んだ。
ブルースは風を指先に集めて、そして矢に伝わらせた。
矢の照準は、リンにあった。
「いくぞおっリンさんっ!!」
高い魔力を帯びた矢が、リンに向かって放たれた。
リンはそれを迎え撃った。
「うおおおっくらええ(ピー)どもおおおおっ!!」
風のオーラと龍虎のオーラが、激突した。
その瞬間、二人の合体攻撃は発動した。

「「風虎風龍矢時雨包(ふーふーふーろんやしぐれづつみ)ッ!!」」
マシンガンのような轟音を立てて、リンにはじかれた矢は大地に降り注いだ。
風のオーラと龍虎のオーラをまとった矢は、その一本一本がランスのような刺突力を持っていた。
モンスターたちは、なすすべもなく貫かれた。
床に届いた矢は砕けて、その破片はまたモンスターたちを襲った。
風が、龍と虎のオーラが、モンスターたちを包み込んで放さなかった。
再生する間も与えられず、モンスターたちは粉塵と化した。
一分もすると、矢の音もやんだ。
風だけが残るその部屋を、ブルースは静かに眺めていた。
そうすると、リンが降りてきて暴走した。
「なんだもう終わりかよ(ピー)どもめ! 毎日毎日(ピー)ばっかして気合いが足りねえんじゃねえの!?
これだから(ピー)は嫌いなんだよこの(ピー)め!!」
「あの、リンさん……戦いは終わったから、もうハチマキを外しても……」
「さあ次はどんな(ピー)が現れやがるんだ!?
かかって来い(ピー)どもめ! この俺様が(ピー)して(ピー)して(ピー)しまくって……」
ブルースは素早く背後に回ってハチマキを外した。
リンは我に返った。
リンは周りを見渡して、それからぶりっこポーズでのたまった。
「り、リンちゃん怖かったですぅっ☆」
「帰れ★」
そして二人は、先へと進む道へ向かった。
部屋には風が取り残されて、静かに舞って、そして消えた。
▲ 7 ▼
クロウは、部屋に入った途端に立ち止まった。
彼の前には、バイオ改造を施されたモンスターたちが山のように群がっていた。
クロウはため息をひとつついて言った。
「気分が悪くなるな。
俺が少し前まで所属していた集団は、ここまで無個性な連中の集まりだったのか」
モンスターたちは武器を振るった。
そしてそれより先に、ティンクはクロウの右側から飛び出していた。
ティンクの魔法が、火を噴いた。
「流星乱舞(リュウセイランブ)!!」
上方に召喚された複数の巨大なメテオは、渦を巻きながらモンスターたちに襲いかかった。
渦は集団のど真ん中に落下し、大量のモンスターを巻き込んでもみ叩いた。
しかし前列にいたモンスターは、構わず二人を目がけて突進した。
「バカめ! 前から順に攻撃しねーと自分の身は守れねーぜ!!」
オーガーの分厚い斧が、クロウの頭蓋を叩き割ろうと振り下ろされた。
そしてそうなる前に、後ろから引かれるように減速して停止した。
「くっ……お……!?」
オーガーは、後方に引き寄せられた。
そこにはメテオの渦があった。
メテオの渦が、モンスターたちを次々と吸い寄せていった。
巻き込まれていくモンスターたちに、ティンクの声が届いた。
「あたちの流星乱舞は、回転運動によって強い引力を発生させるっす!
古代遺跡でちょうちょ捕りをしたときは未完成だったっすが、クロ兄の協力で完成したっす!!」
「ってこれじゃちょうちょを引き寄せてもぐちょぐちょになっちまうじゃぎゃああああ!!」
巻き込まれたオーガーはメテオに潰されてぐちょぐちょになった。
渦はさらにモンスターを巻き込もうと揺れ動いた。
そのとき渦を構成するメテオのひとつに、炎の玉がぶつかった。
「あっ……」
炎との衝突で軌道を変えられたメテオは、渦の流れを断ち切って他のメテオと激突した。
そうして渦が崩壊する中で、ガーゴイルの声が響いた。
「ギャギャギャギャ! この技の弱点は見抜いたギャ!
回転運動によって引力を作るなら、回転運動を止めれば簡単に崩せるギャ!
自分で能力を説明したのが間違いだギャ!」
そしてガーゴイルは躍り出た。
ガーゴイルは素早く移動して、一瞬ののちにはそのミスリルの槍がクロウを射程に捉えていた。
ガーゴイルは続けた。
「そして弱点がもうひとつギャ!
この技は自分も巻き込む恐れがあるから、接近戦では使えないギャ!
そしてクロウは今や片腕! もらったギャ!!」
ミスリルの槍が突き出された。
そのときクロウは、笑っていた。
「さっき鉄の剣を借りたときにも、ブロントに言ったんだがな」
ガーゴイルは、すでにこと切れていた。
その体には、花びらのような白い斬撃が舞い散っていた。
クロウは続けた。
「この白桜乱舞(ハクオウランブ)という技は、もともと俺が開発した技だ。
自分で開発した技に対して、右腕がないなどと泣き言を言えるか?」
クロウは左手の鉄の剣を振り上げた。
その切っ先と重なって、クロウの言葉が凛と響いた。
「俺の白桜乱舞は、左手でもブロントより高威力だ」
▲ 8 ▼
クロウは剣をひるがえした。
白桜乱舞の斬撃が、不意打ちをしようと接近していたモンスターを切り裂いた。
クロウは傷を負ったモンスターに目を走らせながら、ティンクに問いかけた。
「おい、気づいてるかティン助」
「もちろんっすよ、自然回復してるっすね。
あとあたちのことティン助って呼ばないで欲しいっす還暦ジジイ」
「おい待て!? 誰が還暦ジジイだ!?」
「クロ兄のことっすよニブチン!
白髪頭に赤い服で、まるで還暦祝いのおじいちゃんみたいっす!」
「なんだとこのチビ助ー!!」
「言ったっすねこの白髪野郎ー!!」

「「ガァ――――ッ!!」」
「おい、勝手にそっちでバトルしてないで」
ツッコミを入れたオーガーはクロウに無言で切り裂かれた。
クロウは「いい男オーラ」を取り繕いながら、ティンクに言った。
「あまり疲れるのは好まん。
出し惜しみせず、俺たちの最強の魔法で一気に始末するぞ」
「ういっす! 言われなくとも!」
二人は装備を持ち替えた。
再生があらかた終了したモンスターたちは、その様子をいぶかしげに見すえた。
二人の手には、それぞれ形状の違う白い杖が握られていた。
クロウは杖に魔力を込めながら語った。
「この杖が何か分かるか? 遠回復の杖だ。
もっとも貴様らには、『欠陥品』と言った方が分かりやすいかもしれんが」
充分な魔力を注ぎ込まれた杖が、その力を発現した。
白い光が走り回って、床にクロウを中心としたドーナツ状の紋章が描かれた。
クロウは白い光を下から浴びながら続けた。
「遠回復の杖がなぜ欠陥品と呼ばれるのか。
それはその優れた効果適用範囲にも関わらず、使用者自身を回復できないからだ。
それを引き起こしているのが、この中心がくり抜かれた紋章だ。
なぜ、この紋章は中心がくり抜かれているのか。
それはこの紋章が呼び出すはずだった魔法があまりにも強大だったからだ。
人智を超えたその脅威の能力を封印するために、この紋章はくり抜かれたのだ。
今……俺たちは、長らく封印されてきたその魔法を呼び戻す!」
ティンクが回復の杖を振るった。
杖からほとばしる光は、新しい紋章を形作った。
そしてその紋章は、先の紋章にぴたりとはまった。
その瞬間、魔力が胎動した。
殺伐としたこの空間において、その魔力は希望のような甘い香りを伴って輝いた。
湧き上がる魔力を受けながら、クロウは祈りを捧げるように喋った。
「その魔法は、生命をつかさどる魔法……
命を結び、育ち、成熟し、そして老いる、その生命の理(ことわり)を支える存在……!
その魔法の名は!」
あふれた魔力が結実した。
その瞬間、二人は叫んだ。

「「万象起神、マザー・テンミリオン!!」」
それは、女神だった。
神々しく輝く光の中心に、彼女は光臨していた。
女神は、その体全体から魔力を放出した。
光り輝くその魔力は、生命そのものだった。
モンスターたちは魅入られた。
なすがままに、その生命を受け入れた。
モンスターの体内に入った生命は、そのモンスターの生命を加速させた。
生命サイクルが目まぐるしく回って、成熟して、そして老衰した。
生命サイクルはすり切れて、そして停止した。
やわらかな白い光は、ドライアイスの煙のようにゆるやかに床を這っていた。
その中に立っているのは、クロウとティンクの二人だけになった。
そして二人の前で、女神は微笑んだ。
女神の声が、やわらかに響いた。
『誇り高き隻腕の聖騎士よ、そして気高き妖精よ。
あなたたちの未来に、どうか幸あらんことを願う』
そして女神は、消え去った。
あとにはクロウとティンクと、白い残り香だけが残された。
クロウは鼻で笑った。
「あなたたちの未来に幸あらん……か。片腹痛い。
まるで今の俺たちが幸薄いような物言いではないか」
ティンクが、残り香を見つめながらつぶやいた。
「あの女神……たぶん、クロ兄の右手を治すだけの力はあったと思うっす。
でもそれは、言わなかったっすね」
そしてティンクはクロウの顔を見上げた。
クロウはそちらを見ずに喋った。
「見透かしていたんだろうな。
たとえそれを提案しても、それを俺は拒否することを。
不愉快だ。行くぞ」
クロウは足早に歩き出した。
ティンクはそれを追って、てこてこと走り出した。
残り香が彼らを、見送った。
「……ところでさっきの女神、ビジュアルがテミ姉にクリソツだった気がするのは気のせいっすか」
「……あれは生命をつかさどる女神だぞ、それはいくらなんでも」
「……」
「……」
「……忘れることにするっす」
「そうだな、それが一番だ……多分」
▲ 9 ▼
「う、うああっ……!」
モンスターたちは恐怖を感じた。
部屋の中央にルファが立ち、その周りにはすでに氷の塊と化した仲間たちが転がっていた。
ルファの視線が、冷たくオーガーの一体を捉えた。
「さあ、次はあなたを殺しましょうか?」
「ひいっ!?」
オーガーはほとんど反射的に斧を振るった。
ルファはそれを軽くかわして懐へ入ると、がら空きの腹に軽く手を触れた。
その瞬間、オーガーは内部から貫かれた。
「あぐぇっ……」
オーガーは倒れた。
その体は、体内から伸びる氷によって切り刻まれていた。
ルファは微笑みながら言った。
「スキルEコード、エクスプロージョン。
相手の体内に魔力を送り込み、体液を氷結させる。
水は凍ると体積が増えますから、それによって肉体が切り刻まれるわけです」
ルファはゆっくりと視線を走らせた。
視線に当てられたモンスターは、氷を背中に押し当てられたように震え上がった。
ルファの口元が、ニィ、とゆがんだ。
「次は誰を殺しましょうかね?」
「う、うわあああっ!!」
こらえきれなくなったモンスターの一部が、ルファに背を向けて逃げ出した。
ルファは素早く床に手を置いて魔法を発動した。
「スキルSコード、摩天楼(スカイスクレイパー)」
巨大な氷柱が、ルファの手元から順にどんどん突き上がっていった。
伸びゆく氷柱の列はモンスターに追いついて、次々と串刺して天井まで押し上げた。
完成した氷の摩天楼に、血と肉片が滴った。
「おや?」
ルファは振り返った。
その背後には、ガーゴイルが接近していた。
その剣はすでにルファを射程に捉えて、今から魔法を発動しても間に合わなかった。
そして突き出された剣は、右腕とともにあらぬ方向へと飛んだ。
「ぬぎゃぅ!?」
右腕は、切断されていた。
そして次の瞬間には、左腕も、翼も、足も、胴も、その全身が見えない何かに刻まれた。
ガーゴイルずたずたになってくずおれた。
それを見下ろして、ルファは喋った。
「スキルWコード、ワイルドウインドウイング。
細かな氷を風に乗せて、ピアノ線のように私の周りに張りめぐらせておきました」
ルファは片ひざをついた。
そして身動きの取れないガーゴイルの耳元にささやいた。
「気づいてますよ、自然回復できるんでしょう。
ただ殺してはつまらないですから、ある程度回復させてから死なない程度に切り刻み続けましょうか」
「ひいぃ……助けて……」
涙を浮かべるガーゴイルの様子を見て、ルファの口角は自然につり上がった。
そのとき後方で、ミドリの声が響いた。
「る、ルファ――っ!!」
ルファははっとして振り返った。
ミドリはオーガーの太い左腕に捕らえられて、その首筋には斧が突きつけられていた。
足は宙に浮いて、その下にミドリの斧が落ちていた。
オーガーは震えながらも笑みを浮かべて、ミドリを締めつけながらのたまった。
「ふはははルファ、てめーの負けだ!
氷の書を捨てて両手を上げろ! さもなくばこのガキを殺すぞ!」
ルファは冷静に状況を把握した。
そしてため息をひとつつくと、見下すように言った。
「バカは幸せですね、知恵比べに勝ったとカン違いしたまま死ねるんですから」
「なんだと……?」
言った瞬間、オーガーの頭はへしゃげていた。
地面に落ちていたミドリの斧は、すでにミドリの右手に戻っていた。
ミドリがルファに呼びかけたとき、オーガーの注意は完全にルファに行っていた。
その隙にミドリは斧に結んだロープを手繰り寄せて、斧を取り戻していた。
ミドリは力の抜けた腕から抜け出した。
それからルファの元へまっしぐらに駆け寄ると、胸の中へ飛び込んで泣きついた。
「うわ〜んルファ、怖かった、がぅ〜っ」
「よしよしミドリ、落ち着きなさい。
戦いではどんなときでも冷静でいることが一番大事なんですよ」
「がぅぅ、オーガー、触る、した、おっぱい!」
「てめーら堪忍ならねェ――――ッ!!(ぶっちーん)」
▲ 10 ▼
ルファはぶち切れた。
そしてそのたじろぐような怒りの視線を部屋中に送って、そこにいるモンスターたちにほえてかかった。
「てめえら、ミドリに手ェ出しやがって……この恨み……ハラサデオクベキカ……!」
「あ、あのー、手を出したヤツは、ついさっき頭を潰されましたが……」
「黙らっしゃいッ!!」
ルファは完全にぶち切れていた。
冷静さを失って、まがまがしいまでの魔力と怒りのオーラを垂れ流していた。
獣のようにうなりながら、呪詛のように言葉を吐き出した。
「てめえらには、てめえらには死すら生ぬるい……
最凶最悪のこの技を使って、てめえらを呪縛する……!
スキルHコード・プライム!
ヘイルストーンウィズテミフラワー!!」
強大な魔力とともに、ルファは何かを空中に放った。
それはテミフラワーだった。


「「「テミテミ〜」」」
テミフラワーはルファの魔力で急速に凍結した。
そして氷のつぶてとなって、地上のモンスターたちへ一斉に襲いかかった。


「「「テミテミ〜!!」」」


「「「ぎゃああああ――――!!」」」
太鼓を打ち鳴らすかのように、モンスターたちの全身にテミフラワーがめり込んだ。
そしてその傷口から、テミフラワーの魔力が注入された。
「う、うぎゃあああ〜!!(ぴゅ〜だらだらだら)」
「あひいい〜!!(でろでろばしゅ〜ん)」
「ほげろげえ〜!!(どびゅっしぃ〜)」
テミフラワーに打たれたモンスターは、次々に全身噴水と化した。
ゾンビのようにのたうち回るモンスターたちをながめながら、ルファは淡々と喋った。
「ヘイルストーンウィズテミフラワーに打たれた対象は、テミの属性が追加されます。
そう、それはすなわち流血属性。
全身から血を噴き出し続け、その量は『おまえそれ明らかに体の体積より多いだろ!?』というレベルになります。
苦しみなさい。そして後悔しなさい。
この私を敵に回してしまったことをね」
ルファはそれから、ミドリの手を引いて先に進もうと歩き出した。
そのときゾンビと化したモンスターが、ルファに襲いかかった。
「ウガァ――ッ!!」
「む!?」
ルファは素早く氷の盾を召喚して防いだ。
その周りでは、他のモンスターたちも赤い噴水をまき散らしながらゾンビ化していた。
ルファはがく然として叫んだ。
「し……しまった!!
テミ属性の中には、流血属性の他に不死身属性とバカ属性が含まれていたんでした!!」
「がぅーっ、大変、それ!!」
二人の周りには、テミ属性が加わってゾンビ化したモンスターが折り重なっていた。
それらが攻撃動作に移る寸前に、ルファは新しく魔法を発動した。
「スキルIコード、インビオラブルサンクチュアリ!!」
円筒状の氷の壁が、二人の周りを取り囲んだ。
モンスターたちは壁にぶつかって攻撃を阻まれ、そしてまた無計画に壁へと殴りかかった。
知的ではないが、わらわらとうごめくゾンビモンスターたちは停止することを知らなかった。
ルファはくちびるを噛んで思案した。
それからあきらめたように苦笑して、ミドリに呼びかけた。
「まあ、こうなっては仕方ありませんね。
最強の技でカタをつけることにしましょう。
ミドリ、危険なので精霊の法衣の中に入ってください」
「がぅっ!」
ルファが法衣を開いて、ミドリはその中に飛びついた。
法衣を閉じると、その中でミドリがもぞもぞと声を漏らした。
「がぅー、あったかい」
ルファは苦笑して、それから周りを見渡した。
依然壁に攻撃を続けるモンスターたちを見ながら、ルファはミドリに呼びかけた。
「ミドリ、これから使う技は、強力ゆえに大量の魔力を消費します。
私一人の魔力では足りないので、ミドリの魔力を分けてもらえますか?」
「がぅっ、オフコース!」
ミドリは知力の髪飾りを発動した。
髪飾りの効力によってミドリの魔力が強化され、その魔力はルファへと伝送された。
ルファは魔法の構築を始めた。
もしモンスターたちに理性が残っていれば、この時点で決着はついていた。
皮膚を裂くような強烈な冷気も恐ろしいが、その魔法には理性ある者をひれ伏させる畏怖が存在した。
ゾンビ化してそれを認識できない彼らは、むしろ幸せだった。
魔法が完成して、ルファは唱えた。
「スキルZコード、ズース」
英語発音であるこの単語は、一見するとなじみのないものに思えるかもしれない。
だがアルファベットでZeusとつづれば、それが何者か理解できるだろう。
ゼウス。
全知全能の神の名を冠したその魔法が、のそりとその体をもたげた。
その魔法は攻撃対象へ顔を寄せると、魔力のこもった息吹を吹きかけた。
氷属性の魔法である以上、神の名を冠すといえど何かを凍らせるという性質に変わりはなかった。
ただ決定的に違うのは、その凍らせる対象が『時間』であるということだった。
モンスターたちの時間が、停止した。
そうしてすべてのモンスターが無害化されると、その魔法はゆっくりと消滅した。
氷の壁を消してから、ルファは法衣を開いた。
中からミドリが顔を出して、ぷはっと言ってからあたりを見回して漏らした。
「がぅ、モンスター、かちーんこちーん」
「殺したわけではないので、時間が動き出せばまた襲ってきますよ。
もっとも千年は先の話ですが」
それからルファは、ミドリを法衣から引っ張り出そうとした。
ミドリは法衣をがっちりつかんで首を振った。
「さむい」
ルファは苦笑した。
そして仕方なく、そのままミドリを抱えて歩き出した。
歩きながら、ルファはモンスターたちに呼びかけた。
「千年後か、一万年後か、あなたたちが時間を取り戻すときが来るでしょう。
願わくば、その時代に愛あれ」
ルファの言葉は、時の流れに霧散した。
▲ 11 ▼
暗闇の中で、ブロントの剣が乱舞した。
「そこだっ」
ひと筋の光もないこの部屋で、ブロントの剣は迷いなく敵を切り刻んでいった。
暗視スコープをつけたモンスターたちは、テレパシーで浮き足立った会話をしていた。
(なんで真っ暗闇でこんな正確に攻撃できるんだギ!?)
(俺が知るかよ!
きっとなんかトリックがあるはず――)
「そこだね」
ブロントの投槍がオーガーに突き刺さって、会話が途切れた。
ガーゴイルは戦慄を覚えた。
暗視スコープ越しに見たブロントは、間違いなく自身と視線を合わせていた。
ブロントは振り返った。
そして攻撃をしかけようとしていたゴブリンが、ブロントの剣の餌食となった。
そのままブロントは、別の攻撃対象へと詰め寄っていった。
ガーゴイルは硬直していた。
そこへコボルトから、テレパシーが届いた。
(完全にやられてたな。
おまえが今無傷でいるのは、おまえの戦意がしぼみきっていたのをヤツが察知したからだ)
ガーゴイルは震えながらテレパシーを返した。
(なんで……なんでヤツは、俺らのことが手に取るように分かるんだギ?)
コボルトは一拍置いて、それから答えた。
(おまえ、なんとも感じないのか?)
(そんなわけないだろギ!
こんなバケモンみたいの相手にしてて、平静でいられるわけが……)
(そうじゃない。
感じないか、皮膚の痛みを。
びりびりと電流のように空気を走る、この圧力を)
ガーゴイルははっとして自分の腕をながめた。
暗視スコープになんの姿も映らないが、確かにそこに痛みがあった。
ガーゴイルは気づかなかった。
その痛みの中に、いつの間にかブロントの声がまぎれていた。
「それは威圧。
僕の意志が、殺意が、存在感が送り出す、僕の強大な威圧だ。
よほど強靭な者でない限り、この威圧の中でなんのアクションも起こさずにはいられない。
それがどんなに小さくて無意識的なアクションでも、それは威圧の波にゆらめきを起こす」
ガーゴイルは顔を上げた。
ブロントが、まっすぐにガーゴイルを見つめていた。
ガーゴイルは魅了された。
ブロントは微笑みながら、喋り続けた。
「『威圧のエコー』。
全てを覆う暗闇の中でも立ち込める砂塵の中でも、僕から姿を隠すことはできない」
ブロントは闊歩した。
闊歩する間に、戦意が残る者は次々と打ち払われた。
ブロントはそのまま歩き続けながら、満足そうに言った。
「よしよし、これで攻撃してくるヤツはあとあいつとあいつと……うわっ!?」
ブロントは滑って転んで尻餅をついた。
「いたたた……なんだこれ?」
ブロントは尻をさすりながら、手早く床を調べた。
「床が濡れてるな……しかもただの水じゃないぞ、ぬるぬるしてるし、生温かいし……
はっ、まさかこれは!?」
ブロントは辺りの気配に神経を研ぎ澄ませた。
ほどなくして、その必要もないようなどったんばったんの音と泣き声が響き渡った。
「うえ〜んブロント君〜(ごつーん)ど〜こ〜?(ずでーん)
真っ暗で何も見えないよ〜(びたーん)怖いよ〜心細いよ〜(すってーん)」
「テミーっ!?」
▲ 12 ▼
ブロントは音のする方向へ走り出した。
テミはふらふら歩き回ってオーガーとぶつかって、完全にバカになった頭で会話した。
「あ〜ブロント君見〜つけた〜(ぴゅ〜だらだらだら)」
「いや、俺オーガーす」
「あれ〜ブロント君鎧はどこにやったの〜?(ぴゅ〜だらだらだら)」
「いや、もともと鎧は着てないす」
「ブロント君の素肌……ブロント君の体臭……萌え〜vvv(ぴゅ〜だらだらだら)」
「いや、もう二週間風呂入ってないす」
そこへブロントが到達した。
「テミを放せー!!(ずばしゅー)」
「ええー(ぷしゃー)」
ブロントはテミを抱き寄せて呼びかけた。
「テミ! しっかりするんだ!!」
「あれ〜ブロント君〜いつの間にか鎧着ちゃってる〜?(ぴゅ〜だらだらだら)
残念〜せっかく真っ暗だし私も服を脱いで肌と肌のふれあいを楽しもうと思ったのに〜(ぴゅ〜だらだらだら)」
ブロントはため息をついた。
それからテミの耳元に口を寄せて、甘い声でささやいた。
「やれやれテミ、肌と肌のふれあいなんて、そんなまどろっこしいことをする必要があるのかな?
だって僕らは恋人同士、もうすでに心と心が触れ合ってる仲じゃないか」
「ブロント君っvvv」
二人の周りに桃色ワールドが展開した。
その光は輝いて、真っ暗だった部屋を昼間のように明るく照らした。
テミの傷は完全に治癒した。
やわらかに微笑むブロントの顔を見つめながら、テミはささやいた。
「ブロント君……私、ブロント君とひとつになりたい。
しよう。
私たちの、究極の合体奥義」
ブロントはにっこりと笑ってうなずいた。
それからテミを右手一本で抱きかかえて、空いた左手にミスリルの剣を持った。
桃色ワールドに照らされた空間を見つめながら、ブロントは唱えた。
「見せようか、テミ……僕たちの究極の合体奥義。
異種二刀流最終奥義……! 乱☆舞☆散☆打☆撲☆流☆刀(ラブ・サンダーボルト)!!」
ブロントは回転した。
その技の威力は、山あいの村で見せたそれをはるかに上回っていた。
右手に愛情、左手に友情。
それらの想いのパワーが、この技の真の威力を引き出していた。
ダイナマイトのような破壊力とねずみ花火のような機動力をあわせ持つ技に、モンスターたちはかき回された。
「ぬおおおおお!?」
「ブヒ〜〜〜〜!?」
「けきゃああ――――!!」
十秒もかからなかった。
すべてのモンスターは、戦闘不能になっていた。
ブロントは回転をやめた。
そして完全に目を回したテミを放り投げながら、思い出したようにつぶやいた。
「しまったな、残ってたモンスターのほとんどは戦意喪失してたんだった。
ま、殺してないからいいよね」
ブロントは剣を鞘にしまって、先に進もうと一歩歩き出した。
その瞬間、部屋の壁にかかっていたたいまつがひとりでに点灯し始めた。
ブロントは立ち止まった。
「これは……!!」
明かりは順番にともっていって、部屋の中にオレンジの光が散乱した。
それと同時に、ブロントは迫り来るものを感知していた。
それはブロントがかつて感じたことのない威圧だった。
初めて触れる威圧にも関わらず、それが誰のものなのかははっきりと分かった。
強大でなおかつまがまがしい、このような威圧を持ちえる者は限られていた。
ブロントはその名前を叫んだ。
「魔王っ……!!」
魔王は、そこに現れた。
黒い服を身にまとい、吐き気をもよおす威圧を引き連れて。
魔王は髪をいじりながら、口を開いた。
「初めまして、ブロント。
僕が、魔王だ」
勇者と魔王が、今初めて対峙した。
▲1
▲2
▲3
▲4
▲5
▲6
▲7
▲8
▲9
▲10
▲11
▲12
魔王の城(後編) ―危哭鋼雷刺―
目次
小説一覧
トップ