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プライム(prime):
形容詞で、最も重要な、とか最上級の、などの意味。
名詞で、最盛期とか素数とかプライム符号(’)などの意味。


   *


四月終盤の朝、花澄は寝起きのままボロい台所につっ立っていた。
電気が付いていない、日差しはまだ弱い、だから微妙に暗い。

「んー、いい匂いがする」

部屋から雷牙が顔を出した。やはり寝起きで、元々のくせっ毛がさらにおかしい。

「まだ何も作ってないけど」

花澄は振り返りながら首をかしげた。
雷牙はするすると花澄に近寄って、彼女の黒髪に鼻をうずめた。

「君の匂いだよ」

ばちん。雷牙の頬に紅葉がついた。

「朝っぱらから寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ」
「あはは、それ微妙におかしいー」

頬をさすりながらへらへらと八重歯を見せる。可愛い。
花澄は顔をそむけつつ、小さな冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを取り出した。

「あたし、今日朝早いけど」

言いながらフタを外して、それから直接口をつけて三口ほど飲んだ。

「間接キス」
「駄目」

差し出された両手をはたき落とした。
花澄はコーヒーを冷蔵庫にしまうと足早に洗面所へ向かった。

「花澄ー、朝ご飯はー」
「勝手に用意して」
「花澄は食べないのー」
「あたし朝は食べない」
「太るよー」
「なんでよ」

花澄の姿は洗面所に消え、水道の音やその他出かける支度をする音が聞こえてきた。

雷牙はしぶしぶ食パンを取り出して古めかしいトースターにぶち込んだ。
焼き上がるまで目を大きく開いて瞬きせずに我慢できるかやってみる。
無理、涙があふれた。
残りの時間で息を止めていられるかやってみる。
無理、失神する。
次は何に挑戦しようか、と考えていたら焼き上がりを告げるベルが鳴った。

雷牙はトーストを取り出して冷蔵庫を開けた。
バターがない、代わりにハムとかスライスチーズが入っている。
知っていれば焼く前に乗せたのだが、仕方ないのでトーストの上に直接乗せた。
ドアポケットからケチャップを取り出す。
ほとんど残ってない。
トーストを皿に置いて両手でケチャップをしぼる。
なんとか数滴出てきた。
ようやくトーストにかぶりついたら、ハムが切れずに丸ごとついて来た。
ついてきただけ一口で食べて、新しいハムをトーストに乗せた。

「食べ終わった、雷牙」

バタバタしつつ食べ終わったそのタイミングで、花澄が出てきた。
髪をポニーテールにして眼鏡を掛け、服も着替え終わっている。

「花澄って身支度早いよね」
「んー、あたしは別に普通だと思ってんだけどね」

言いつつ花澄は部屋に入って、バッグを持って戻ってきた。

「じゃ、あたしは大学行くから。鍵はポストに入れといてね。
ていうかあんたも早く出なさいよ」
「大丈夫、今日の講義午後からだから」
「あのね、じゃなくてあたしの部屋でくつろぐなっての。
あと布団も上げといてよ、敷きっぱなしだと畳が傷むんだから」

それだけ言って、花澄はさっさと出かけてしまった。

雷牙は軽く伸びをして、ふらふらと部屋に戻った。
六畳間に、雷牙の布団だけ敷かれている。

「んんー」

雷牙はそのまま布団の上に倒れ込んだ。
明らかに二度寝の構えである。
それなのに、携帯が軽快な洋楽を奏でだした。

「んー」

不機嫌そうな声を漏らして携帯を取った。
着信音の設定から、電話の主は確認しなくても分かった。

「なんだよ、ジョナサン」

電話の相手が手短に用件を告げた。

「え」

雷牙は飛び上がってあぐらに直り、電話の相手に問いかけた。

「マジで」

体が思いっきり携帯の側に傾いて、その目から眠気が飛んでいた。
相手の返答を確認して、雷牙はニンマリと八重歯を出した。

「オッケー、すぐ行く」

通話を終えると同時に、雷牙は飛び上がった。
素早く服を着替え、髪を直し、荷物を整え、五分の後には玄関から外へ飛び出していた。
正面に植え込み。右手方向から射す朝の日差しが、まぶしい。
雷牙はくるりと向き直って、焦げ茶の木製扉に鍵をかけようとした。

「あ」

布団を上げ忘れた。

「ま、いっか」

雷牙は手早く鍵をかけて、朝日の方向へ走った。
途中で一〇四のポストに鍵を投げ入れ、アパート「ハイツ22世紀」の敷地外へ。
足跡響かすアスファルトの上で、陽光が飛び跳ねた。









第2話

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