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   1


中田ユージは目を覚ました。
異変には、すぐに気がついた。

「……ん?」

ユージは体を起こした。
そこは、だだっ広い草原だった。
風に揺れる緑の草が、ユージの青い道着をなでた。
さっきまでいたはずの室江高校剣道場は、影も形もなかった。

「……あれ?」

ユージはその現状が飲み込めずにいた。
そうしていると、何か重たい物が草を踏み分けて近づいてくる音が聞こえてきた。
それは馬車だった。
馬車がユージを目がけて、バカラバカラバカラバカラと一直線に走ってきていた。

ユージの目前で、馬車は粉塵を上げて急停止した。
ユージはあわやひかれかけて身をこわばらせた。
そうしていると中から、燕尾服に身を包んだ女性が出てきた。
金髪を後ろでくくったその女性は、出てきた途端に早口で喋った。

「はいはいどーもこんにちはーナマステー!
捜索隊長、十二時の方角にて勇者様一名発見しましたー!」

「キリノ部長っ!?」

ユージは思わず叫んだ。
その女性の姿は、まぎれもなく室江高校剣道部部長・千葉キリノのそれであった。
ユージがあふれる疑問を口にする間もなく、キリノ(?)はユージの腕をつかんで言った。

「さあ、行こうね」

「えっ、どこへ?
うわ、拉致られる!?」

ユージは馬車に引きずり込まれた。
それから馬車は急発進した。

「さあさあさあさあ勇者様!
大冒険の始まりだよー!!」

「なんなんだー!?」

馬車は地平線の彼方へ消えた。
草原でねこが、それを見送った。


   2


「あの、キリノ部長、これはいったい……」

クラシックとおぼしき音楽の中で、ユージは尋ねた。
ユージは城の中に連れ込まれていた。
天井にはシャンデリアが輝き、テーブルにはワインや豪華な食事が並んでいた。

キリノにそっくりなその女性は、ぺらぺらとまくし立てた。

「あたしはキリノ部長じゃないよー!
このムローウェ城の執事、キリネロなのだー!
まあでもユージ君が呼びやすいなら、キリノ部長でもいいけどねー」

「あの、話が全然見えないんですけど……」

ユージの表情を見て、キリネロはにっと笑った。
それからハリセンを取り出して、それでテーブルを叩きながら喋った。

「説明しよう!
この国は魔法の国ムローウェ王国!
今この国はあるピンチに直面している!
それは国の乗っ取りをもくろむ闇の剣士、トヤーマとイワッサの台頭!
彼らは各地で侵略を重ね、ついにはこの城のお姫様までもさらわれてしまった!
この国の希望はただひとつ、勇者であるユージ君の存在だけ!
さあ戦うのだユージ君!!
この国を滅ぼそうとするトヤーマたちにひと泡吹かせるのだー!!」

キリネロは涙を流しながら熱っぽく喋り終えた。
それとは対照的に、ユージのテンションは冷めきっていた。
微妙な距離感を感じさせながら、ユージは喋った。

「いや……もう、ワケが分かんないですよ……
そもそもなんで俺が勇者なんですか?」

「勇者の証としてお姫様がつけたひたいの傷が動かぬ証拠だー!!」

「これ、タマちゃんにつけられた傷なんですけど……」

ユージは前髪を上げた。
そこには確かに傷があった。
それは小学生のころ、諸事情によってタマちゃんにつけられた傷であった。

キリネロはうなずいた。
その表情が、変わっていた。
さっきとは打って変わったシリアスな口調で、キリネロは言った。

「そう、タマちゃん。
当然気づいてるだろうけど、あたしってそっちの世界の千葉キリノにそっくりでしょ?
それはあたしと千葉キリノが魂の奥深いところでつながってるからなの」

キリネロの目が、ユージの目をまっすぐにとらえた。
キリネロの言わんとすることが、ユージには予想できた。
キリネロの口が、核心を突き出した。

「お姫様の名前はプリンセスタマキ。
そっちの世界でいう川添タマキとつながってるよ」


   3


ユージはしばらく沈黙した。
それからキリネロの目を見返して、尋ねた。

「それって……つながってることで、何か問題が起こったりするんですか?」

キリネロはあごに手を当てて答えた。

「人によるね。
例えばあたしなら、つながってることによる影響はそんなにないと思う。
あたしの場合、つながってる人間が千葉キリノって名前だってことくらいしか知らないし、
意識の共有もほとんどないに等しいしね。
でも、タマキ姫は違う。
川添タマキの意識を通じてそっちの世界を見通せるし、少しだけコントロールすることもできる。
そういう共有能力が強い人は、片方に何か起こるともう片方に伝播することがあるんだ」

キリネロはそこで言葉を切った。
黙って聞いていたユージは、少し考えてから尋ねた。

「もし、タマキ姫に万一のことがあったら……?」

キリネロは、うつむいて答えた。

「もし、タマキ姫に万一のことがあったら……
川添タマキにも、きっと重大な影響が出る……」

キリネロは顔を上げて、ユージに言い放った。

「少なくとも、剣道家としての選手生命は保証できないよ」

二人は沈黙した。
クラシックの音楽だけが、その場に響いた。
ややあって、ユージはうなずいた。
そしてキリネロに答えた。

「分かりました。
俺の力がどこまで役立つか分からないですけど、できる限りのことをやります」

その瞬間、キリネロの顔がぱあっと輝いた。
それからキリネロはユージの手を取って、ぶんぶん振り回しながら喋った。

「ありがとうユージ君ー!!
さすがはタマキ姫が指名しただけのことはあるよー!
よーしユージ君、そうと決まればさっそく出発の準備だよー!!」

「えっ、今から!?」

キリネロはユージを引っ張って、料理の並んだテーブルから引き離した。
そしてその部屋を出て、廊下をずんずんと進んでいった。
進みながら、キリネロは喋った。

「これからユージ君にとっておきの装備を渡すよ!
その装備はかつて城に仕えた伝説の剣士が使ってたものなんだ!
すごいんだよー、かっこいいんだよー。
その鎧は赤く輝き、その剣は炎を呼び寄せる!」

「……まさか、それって……」

ユージの頭に、タマちゃん関連で今のデータに該当しそうなキャラが浮かんだ。
キリネロは顔をユージに向けた。
そして満面の笑みで言い切った。

「最高の剣技と勇敢さを合わせ持つ超戦士!
人呼んで『ブレードブレイバー』!!」

「やっぱりかー!!」

ユージは引きずられていった。
その後ろ姿を、ねこが見送った。


   4


「まさかブレイバーの格好をする日が来るなんて……」

武器倉庫にて、ユージはキリネロに強引に着替えさせられた。
ユージの首から下は、すでにブレイバーそのものになっていた。
キリネロはその正面で、しみじみと漏らした。

「う〜ん、やっぱりいいねえこの往年の汗くささ。
そしてこれから追加されるであろう若々しい汗くささ……
う〜ん、青春だぁねえ」

「あの、キリノ……キリネロさん」

キリネロの発言を無視して、ユージは問いかけた。

「これ、ヘルメットとかないんですか」

「おりょ?
確か一緒に置いといたはずだけど……」

キリネロはガラガラとそこらの装備をのけて探しかけた。
それから何か思いついたように、手のひらをこぶしで叩いて言った。

「あ、そうか。
こないだメイドのサトリームがお弁当箱と間違えて持って帰っちゃったんだ」

「はあ……そうですか……」

ユージはげんなりと肩を落とした。
キリネロはあははと笑って言った。

「まあまあ、普通の兜でガマンしてよ。
ほらっ」

キリネロはユージに鉄の兜をかぶせて、それから手鏡を渡した。
ユージは自分の姿を確認してぼそりと漏らした。

「ブレイバーの鎧に普通の兜はダサい……」

キリネロはあはははと笑った。
それからユージを倉庫の外へ押し出しながら喋った。

「さあさあさあさあ、準備ができたらさっそく出発しようね。
勇者ユージの大冒険が始まるよー!」

「もう、好きにしてください……」

ユージは馬車の中に押し込まれた。
そして馬車は走り出した。
その後ろ姿を、ねこが見送った。



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