9
しばらく間があった。
トヤーマはユージを見下ろした。
それからその口から、言葉がはね出た。
「で?」
トヤーマは猛攻をしかけた。
ユージは押されて後退した。
攻め込み続けながら、トヤーマは怒鳴りつけた。
「カッコつけてんじゃねえよ!!
不利なのはいまだてめえの方なんだぜ!?
さっさとくたばっちまえよザコが!!」
トヤーマは光の剣を発射した。
ユージは大きく右にのいてそれをかわした。
それから攻撃後のスキを狙って剣を振り上げた。
その瞬間、ユージの左半身に何かが刺さった。
「うっ!?」
ユージは一瞬の判断で後ろに飛びのいた。
コンマの差で、ユージが今いたところをトヤーマの剣が横切った。
ユージの左腕や左足には、光の剣が刺さっていた。
トヤーマは口角を上げて言った。
「説明が足りなかったな。
その光の剣は、水やガラスのような透明な物体に当たると乱反射するんだ」
トヤーマは光の剣を連続して発射した。
ユージは右へ左へ走り回った。
水路とガラスの装飾品が、その存在意義を明らかにして牙をむいた。
光の剣は八方から襲いかかった。
「くっ……!」
ユージは炎を渦巻いてそれらをねじ伏せた。
トヤーマは狙い定めて水流を放った。
炎を撃ち抜いた水流を、ユージはギリギリで横にかわした。
その水流から、光の剣は顔を出していた。
寸前で、ユージは顔面を両腕で覆った。
光の剣はユージの両腕に刺さった。
トヤーマは詰め寄って、剣を降り下ろした。
ユージは剣を構え直して受け止めた。
両者の眼光が、衝突した。
「――!」
無声の気合いとともに、ユージはトヤーマを払いのけた。
トヤーマはいらだちをあらわにして怒鳴った。
「うぜーんだよいい加減!!
とっととツブれちまえよ、死にかけの分際で!!」
後退したトヤーマは光の剣を放った。
ユージは叫んだ。
「負けられるか!!」
タイミングを合わせて、ユージは地を蹴った。
光の剣が、ユージの右目に刺さった。
「!!」
トヤーマの右の上腕に、光の剣ははね返った。
10
「っぐ……」
トヤーマが剣を取り落として、床に落ちる音が高く響いた。
キリネロが声を上げた。
「そうか、水晶体!
目の中には透明な物体である水晶体が存在する!
それを使って光の剣をはね返したんだ!!」
トヤーマは腕を押さえて後ずさった。
その正面で、ユージは剣を振り上げた。
ダメージの蓄積は目に見えて限界に近づいていた。
ありったけの気合いで、ユージはトヤーマに突進した。
「りゃあ――っ!!」
「くっ――」
トヤーマは後ろに逃げた。
ユージの剣は空を切った。
それから素早く切り返して、炎をほとばしらせた。
トヤーマに防御のすべはなかった。
「うおおっ……!」
分厚い炎に巻かれながら、トヤーマは走り回った。
ユージは攻めの手をゆるめなかった。
「これで決着をつけてやる……!
うらあ――っ!!」
炎の渦が、トヤーマを追い立て回した。
トヤーマは剣を拾う間もないまま、なりふり構わず逃げ惑った。
そのときキリネロは、トヤーマの目を見た。
目を異様に血走らせて、トヤーマはうめいた。
「てめェ……許さねェ……!
この俺をコケにしくさって……絶対に……!」
ほんのわずか、炎と炎の間に切れ目が生じた。
その一瞬、トヤーマは高く左腕を振り上げた。
階段の上でおとなしくしていたイワッサが、急に慌て出した。
「やべえっ、トヤーマ、あれをやる気だ……!」
その様子に、ユージもキリネロも気づいた。
ユージはトヤーマの周囲に素早く視線をめぐらせた。
そしてキリネロの方を向いて、叫んだ。
「逃げて、キリネロさん――!!」
トヤーマの腕輪が、光った。
11
「死ねやァ――ッ!!」
放出された大量の光の剣は、真上に鎮座するシャンデリアに衝突した。
光の剣は乱反射して、豪雨のように地上のユージへと叩き落とされた。
「……!!」
ユージは声が出なかった。
光の剣は全身を貫いて、降りしきる雨の中に血を散らせた。
剣は地上へと至ってからも容赦しなかった。
水やガラスに当たった剣ははね返って、さらにユージを攻め立てた。
木の葉のように舞うユージの姿が、キリネロの目の前にあった。
キリネロは思わず駆け寄ろうと動いた。
「ユージく――」
そのとき剣は乱反射した。
鋭い光の一撃が、キリネロの左肩を撃ち抜いた。
「――」
キリネロの体が浮き上がった。
そしてそのまま後ろへとかたむいた。
その光景は、全身を撃たれたユージの目にも映っていた。
キリネロがあお向けに倒れるより早く、ユージは叫んでいた。
「キリネロさ――ん!!」
狙いを外れた光の剣が、床や壁をガリガリと削った。
飛散する剣はなくなって、砂ぼこりだけが残った。
ユージは走った。
血がバタバタと流れ落ちた。
キリネロは、天井に視線を向けていた。
その視界にユージが飛び込むと、キリネロはそちらを見て笑顔を作った。
「ごめーん、ユージ君。
戦いのジャマ、しちゃったね」
キリネロは起き上がろうとした。
そこでぎくりと顔をしかめて、肩を押さえた。
ユージは慌てて押し戻した。
「ダメですよキリネロさん、動いたら傷が……」
ユージは肩に目をやった。
傷は深くえぐられていた。
流れる血が、床に赤く染み広がっていった。
キリネロはユージの顔を見て喋った。
「えへへ、大丈夫だよ、ユージ君。
これくらいのケガ、へっちゃらだよ」
「キリネロさん……」
キリネロはにっこりと笑った。
その顔はすでに、血の気がうせて青白くなっていた。
それでもキリネロは笑顔を崩さずに、喋り続けた。
「ごめんね、ユージ君。
こんな戦いに、巻き込んじゃってさ」
キリネロの声が、かすれ始めた。
ユージは覆いかぶさるようにキリネロの顔をのぞき込んだ。
キリネロは笑顔だけは保ちながら、ユージを見つめて言葉をつむぎ続けた。
「本当はさ、逃げてもいいんだよ、ユージ君は。
もともと無関係、なんだしさ。
でも、ね、ちょっとだけ、ワガママを言わせてもらえるならさ。
助けて、ほしいな、タマキ姫」
まどろんだキリネロのまぶたが、ゆっくりと下りていった。
その瞳が完全にさえぎられる前に、キリネロは最後の言葉を吐き出した。
「それが、タマキ姫の、望みだから――」
キリネロの目が、閉じられた。
12
ユージはキリネロを見下ろした。
キリネロは動かなかった。
ユージのつぶやきが、口の端からこぼれて流れた。
「キリネロさん……?」
部屋の真ん中の方で、トヤーマは息を荒げて二人の様子を見ていた。
トヤーマは歩き出した。
その足音が、ユージの耳に届いた。
ユージは振り返った。
トヤーマは床に落ちた剣を拾っていた。
空気の温度が、変わった。
ユージはトヤーマに問いかけた。
「あんた、何考えてんだ……?」
トヤーマはそれに気づいて、そちらを見て返した。
「ああ?」
ユージはトヤーマをにらんだ。
その瞳には、明らかに怒りの色があった。
語気を強めて、ユージはトヤーマに問い詰めた。
「あんた、分かってたはずだろ……
今の技を使ったら、キリネロさんも巻き込むかもしれないって……!
なんで使った!?
キリネロさんを傷つけるような技を、なんで使ったんだ!!」
「るせえっ!!」
トヤーマは怒鳴った。
それから剣を振って、わめき散らした。
「関係ねえよ、そんなこと!
キリネロがどうした?
そいつが死のうがどうしようが俺の勝ちにはなんねーんだよ!!
てめーがツブれねーとどうしようもねーだろバカヤロー!!」
ユージの周りの空気が、ぐにゃりと曲がった。
ユージは発熱していた。
怒りで空気をこがしながら、ユージはわなないた。
「あんたは……剣士として……人として最悪の人間だ……!
もう俺は……ガマンの限界だ!!」
ユージは剣を握った。
そして立ち上がろうとした。
しかし力が抜けて、ユージは床に剣をついた。
血が剣をしたたった。
トヤーマが嘲笑を浴びせた。
「限界なのはてめーの体力みてえだな!
さっさとツブれちまえ、クソザコがァ――ッ!!」
トヤーマは剣を振り上げて突撃した。
ユージはいまだ発熱していた。
迫り来るトヤーマに眼光を飛ばしながら、ユージは叫んだ。
「俺は……ブレイバーだァ――ッ!!」
発熱が、爆発した。
「――っ!!」
トヤーマは停止した。
前に進むことができなかった。
沸き上がる熱量が、ユージの全身を駆けめぐった。
その熱量は兜に蓄積して、そのデザインを変更させた。
鎧に対して不釣り合いだったそれは、今は完全に適合する形となっていた。
ユージは、ブレイバーとして覚醒した。
「おおお――っ!!」
ユージの咆哮が響いた。
次の瞬間、赤いボディはトヤーマの目前まで接近していた。
「っ!!」
軌道を見せる間もなく、トヤーマの剣とブレイバーの剣が激突した。
破壊力は炸裂音に変換されて、それでもまだあり余った。
トヤーマは吹き飛んで、背中を噴水に打ちつけた。
「がはっ……!!」
トヤーマはくずおれた。
砕けた噴水のガラス片が、噴き出す水とともに周りに散った。
その正面に、ユージは降り立った。
傷は完全に癒えていた。
剣を振りかざして、ユージは叫んだ。
「あんたを、倒すッ!!」
13〜16へ
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