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魔王の城(後編) ―究極緊急回避釦―
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「リセットだって……?」
ろうそくが橙に照らす紫の大部屋は、戦闘前の静けさとぴりぴりした威圧に満ちていた。
魔王は髪を指にからませながら、ゆがんだ笑みを浮かべて喋った。
「そう、リセット。
この戦闘が始まる前に僕が定めた時間に、今までの戦いを無視して戻した。
だからダメージも何もかも、完全に元通りになったわけさ」
それから、魔王は髪から指を離した。
「ただし、記憶を除いてね」
魔王は魔法を発動した。
それは、強化されたズースだった。
数刻前に発動したその技は、魔王が記憶したことによって「強化込み」でコピーされていた。
「くっ……!」
クロウはパラディン付与を発動した。
強化されたズースには、もとよりマザー・テンミリオンでは止められなかった。
パラディン付与を受けて、仲間たちは魔法を発動した。
「スキルZコード、ズース!!」
「クリムゾンマーキュリー!!」
強化された炎が、魔王のズースを削り取って消耗させた。
そこへルファのズースがぶつかって、魔王のズースを無力化させた。
魔王はニヤリと笑った。
「強化された技に対抗するには、強化された別の技をぶつけるしかない。
けどそれは、僕が使える技をどんどん増やすということ。
強化されたクリムゾンマーキュリー、これで覚えたよ――!!」
そのときブロントが、魔王の背後に回り込んだ。
魔王は振り向いた。
強化されたミスリルの剣を振って、ブロントは技を放った。
「雪色白桜乱舞(ユキイロハクオウランブ)」
純白の斬撃が、魔王の体をつじ走った。
魔王は吹き飛んだ。
そのローブの裂け目から、割れた氷の盾が見えた。
血を吐きながら、魔王はニタリと笑った。
「スキルBコード、ブロッカーブロックアイス。
強化なしの魔法じゃあ完全に防御はできないけど、致命傷さえ防げばそれでいい……!
究極緊急回避釦(リセットボタン)!!」
空間が、再びゆがんだ。
全員の配置が戦闘前に戻って、魔王の傷はなくなっていた。
魔王は速攻で動いた。
「クリムゾンマーキュリー!!」
強化値込みの重たい炎が、横一列になったパーティーを襲った。
クロウはすでに能力を発揮していた。
白い光の強化を受けて、ルファは氷の魔法を発動した。
「スキルSコード、摩天楼(スカイスクレイパー)!!」
強化された氷が、炎を迎え撃った。
魔法は水蒸気に変わった。
その噴き立つ煙霧に巻かれて、戦士たちは一瞬ひるんだ。
そのスキをついて、魔王は空を蹴って動いた。
「――っ!!」
ジルバは反射的に槍で防御した。
気功波をまとった魔王のパンチが、槍の横腹にぶち当たった。
魔王はにやりと笑顔を投げかけて、ジルバに言った。
「ジルバを倒せば僕が有利なのは、今の条件でも変わらない……
そしてもうひとつ!!」
魔王はジルバから離れた。
宙を蹴って接近した対象は、遠回復の杖をかざすクロウだった。
「く……!」
手が塞がって剣を振れないクロウの前に、ブロントが割り込んだ。
気功波を相殺されながら、魔王はニヤついていた。
「今の条件なら、クロウを倒しても僕が有利になるよね。
まあ二人のうちどちらかさえ倒せばいいなんて条件、始めっから有利なワケだけど!!」
魔王はブロントを蹴り上げた。
ブロントが飛ばされて、クロウを守る者がいなくなった。
魔王はクロウに攻撃をしかけようとした。
その途中で、水蒸気の中に氷の粒子があるのに気づいた。
「スキル、Cコード……!」
こすれた粒子同士が静電気を引き起こして、雷雲の中のような電撃をほとばしらせた。
魔王は全身にそれを食らった。
身を焼かれて歯を食いしばりながら、しかし余裕を持って魔王はのたまった。
「バロスだね……! 電撃使いの僕に、電撃で致命傷が与えられるとでも……!?
究極緊急回避釦(リセットボタン)!!」
空間が、みたびゆがんだ。
最初の配置に戻って、魔王は余裕の表情で戦士たちを見た。
魔法は髪をいじりながら、いらつく戦士たちに喋った。
「ご苦労様なことだよね、本当に。
君たちはまだ僕に勝つ気でいるのかな? ん?
そろそろ僕も面倒になってきたからさあ、素直に降参してくれるとありがたいんだけど」
「誰が……」
魔王の言葉に、ジルバが反論しようとした。
そのとき彼らの中から、一人が前に踏み出した。
ルファだった。
ルファは魔王の前に出て、含んだ笑みを見せながら喋った。
「知らぬが仏という言葉がありますが、今のあなたはまさにそれですね。
あなたはすでに敗北の淵に足を踏み入れたのに、気づかず笑っていられるんですから」
魔王のにやつきが、止まった。
いぶかしげな視線を送りながら、魔王は言葉をこぼした。
「なんだって……?」
ルファはにやりと笑った。
クロウに視線で強化を要求すると、手のひらに魔力を集めながら、ルファは静かに語った。
「分かりませんか?
すぐに分かりますよ、身をもって……ね。
スキルSコード……摩天楼(スカイスクレイパー)」
地面に置いたルファの手から、氷の柱が連続で立ち上がった。
魔王は鼻を鳴らした。
それは憤慨だった。
さっきから何度も見てきた技に対峙して、魔王はあざけった。
「意味不明だルファ、ここに来て何かと思えば!
氷の魔法を相殺する魔法は、すでに覚え……て……」
魔王が、宙に浮いた。
構えのポーズをとったまま、魔王は氷の柱に胸を押し上げられていた。
「グハァッ!?」
魔王は空中に放り出された。
血を吐きながら落下する途中で、その視界にルファと、知力の髪飾りを光らせるミドリが入った。
「がぅ、知力の髪飾り、作用する、知力、がぅです!
ミドリした、効果、知力の髪飾り、付加、ルファ、がぅです!」
ルファは倒立した魔王の視界で、びしりと指を向けて言い放った。
「サイレントビスタス(沈黙する過去への回想と未来への展望)!!
スキルCコード・プライム、クー・デ・フードル サイレントビスタス!!
髪飾り効果を付加した電撃は、あなたの記憶を破壊しました!!」
魔王の絶望が広がるより先に、氷の霧が魔王を包んだ。
記憶を焼く電撃が、魔王を打ち鳴らした。
▲ 2 ▼
時を戻した魔王は、冷や汗を流してじりりと後退した。
ルファは冷ややかな笑みを浮かべて、淡々と語った。
「脳神経の情報は、電気信号によって伝達されています。
知力の髪飾りを作用させたクー・デ・フードルは、その電気信号に変調をきたします。
リセットボタンをむやみやたらに押せるのは、セーブデータがきちんと機能しているから。
バグの発生したセーブデータで、あなたは安心してリセットを押せますか?」
「く……!」
魔王はうろたえた。
そこへティンクから、魔法が放たれた。
「銀河流星乱舞(ギンガリュウセイランブ)!!」
白いメテオの渦が、魔王に襲いかかった。
魔王は見上げながら、舌打ちを打って魔法を使った。
「この魔法は知っている……渦を崩せば……ファイア弾っ!!」
発射された炎が、メテオを叩いた。
渦は崩れなかった。
魔王はうろたえた。
「ち、違う! 強化された魔法はそれで崩せなかったのか!
対策は……ううっ、そんな時間はない――!!」
魔王は渦に引き込まれた。
引き込まれながら、ぎらぎらした目をルファに向けた。
「だが、まだ勝機はあるぞ!!」
魔王は時を戻した。
初期配置に戻ると、魔王はすぐに魔法を発動した。
「記憶を消す技は僕も覚えた……!
これでみんなの記憶を消せば、それで条件は同じ!
スキルCコード・プライム、クー・デ・フードル サイレントビスタス!!」
魔王の電撃が、パーティーを襲った。
「甘いぜッ!!」
掲げられたジルバの槍に、電撃はすべて吸い寄せられた。
ジルバは高笑いしながらのたまった。
「はーっはっはっは、忘れたか魔王!!
電撃は俺がいる限り無効だぜ!!
いや、それとも記憶を焼かれて本当にボケちまったか?」
「ううっ……!」
魔王はふらりとよろめいた。
ジルバは意気揚々と続けた。
「ついでに、もう一個気づいちまったことがあるんだなー。
てめえはいろんな技をコピーしてきたが、ここまでブロントの剣技やブルースの弓技は全然使ってねえ。
せいぜい疾風の指輪による風の魔法を使ったくらいだ。
つ・ま・り、てめえのコピーできる技には限度があるということ。
魔力や威圧による技は再現できるが、武器を使った技は再現できねーんだ。
つまーり!! 俺様の避雷針能力は、鎧を着てねえてめえには再現不能ってわけだ!!」
「うううう……!」
魔王はめまいを起こした。
ジルバの指摘は、寸分の狂いもなく真実だったのだ。
ルファの電撃が、魔王を襲った。
記憶を焼かれてのたうち回る魔王に対して、ルファは冷酷な笑みを浮かべた。
「覚えた技をすべて忘れるのが先か、それともリセットの仕方を忘れるのが先か。
どのみち、すでにあなたが勝つ目はありませんよ」
ミドリが斧を構えて、魔王へと走った。
「がぅ、終わらせる、戦い、今すぐ!
うぃずらばー、愛と笑いと冒険と、これにて完結、まんまむぃーや!!」
ミドリの斧が魔王を襲った。
その斧が届くより一瞬早く、魔王は目を見開いた。
「ディープゲーマー・最後のパンドラ!!」
三本目の角が、魔王のひたいに突き出した。
「――っ!!」
魔王から放たれた桃色の魔力が、ミドリを飲み込んだ。
「ミドリっ!!」
ルファは駆け寄ろうとして、桃色の魔力にはばまれた。
桃色の魔力は分厚く立ち込めて、視界を完全に隠していた。
それは霧のように、しばらくすると晴れていった。
それに伴って、ミドリの姿は魔力の中から見えてきた。
そしてミドリは、しっぽを振っておもむろに口を開いた。
「わんわん、ルファ!
ボク、散歩に行きたいわん!
ボクの首に首輪を巻いてリードをつないでくれたら、どこまでもついてくわ〜ん!」
雷のような衝撃が、ルファを襲った。
「なっ、これはイヌっ娘&ボクっ娘!?
女性キャラをケモノ化するのは萌えの常套手段ですが、
その中でもイヌっ娘はイヌの持つ忠義のイメージがあいまって男性の潜在的独占願望をくすぐるもの!
そしてボクっ娘は一人称をあえて男性のものである『ボク』にすることで、
そのキャラがかいま見せる女性的印象を強調するという効果がある!
どちらのキャラづけも、共通するのは『女性的イメージからの乖離(かいり)』!
心理的に男性、またケモノと化した女の子は自身が女の子だということを忘れて行動する!
それゆえ普通の女の子なら絶対にしないようなあられもない格好行動をしてしまったりして、
見ている男性陣としてはハラハラドキドキそしてドッキンズッキューンの連続となる!
これは……萌えだッ!!」
ざわめきがパーティーに広がった。
ブロントが光景を見て、つぶやいた。
「萌えキャラ化……!?」
魔王はにやりと笑った。
桃色の魔力を三本の角にまとわらせながら、魔王はその魔法の名を叫んだ。
「絶対正義二次元愛(ディメンションシーカー)!!
桃色の魔力に触れたキャラは、萌えキャラと化す!!」
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魔王の城(後編) ―絶対正義二次元愛―
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